09/28 ( 22:56 )
岩鳶ハロウィン

ツイッターで散々騒いでました、「雅代」ネタです。
まこちゃん…(合掌)



思えば、昨日に交わした何気ない会話から疑うべきだったかもしれないと、真琴は回想する。

次の授業が始まるまでの短い休み時間。
教室の各所でクラスメイト達が談笑しており、自分達もその日常的な風景に溶け込んでいた。
遙に溌剌とした絶対的な愛情を直球で投げる知愛美と、それを冷ややかな眼差しであしらう遙、それを苦笑しながら見守るのがいつものことであった。
この何気ない時間がとても平和的で、好きだ。

「あっ! そういえば明日はハロウィンだよね」

不意に、知愛美は手を合わせて閃いたように言った。
ハロウィンだなんてあまり馴染みがあるものではないが、楽しいイベントなら何でも愛してしまう彼女は目を輝かせ、期待に満ちた笑みを浮かべる。
一方、相変わらず遙は興味を示すことなく、柔い陽射しが注がれる窓の外へと視線を向けている。

「ハロウィンかぁ。クリスマスとかに比べてあまり浸透しないよな」
「そんなことないよ! 楽しく仮装して、お菓子まで貰える素敵なイベントなんだよ!? 浸透しないわけないじゃん!」
「ちあは一度ハロウィンをちゃんと調べた方がいいよ」

目を血走らせる勢いで力説する彼女は、純粋な欲望に忠実だった。
彼女らしいといえば、彼女らしい。

「明日は気合入れて仮装してくるからね! マコちゃんもハルちゃんも、ちゃーんとお菓子用意しといてね!?」
「鯖なら用意できるぞ」
「話聞いてた!? お菓子! お菓子だから!!」
「まあまあ、俺がちゃんと用意しておくから」
「ほんと!? ありがとマコちゃん! さっすが〜!」

知愛美のこういった無邪気さは、いるだけで場を明るくしてくれる。
華々しく放たれる笑顔を、真琴は微笑ましく見守るのであった。



あの時に気付くべきだった、知愛美の言う「気合の入れた仮装」が、碌なものであるはずがないということに。
真琴は荒々しく息を切らし、持てる力を振り絞って疾走しながら後悔していた。

「ちょっとマコちゃーん! なんで逃げるのー!?」
「ちあが追いかけてくるからだろー!!」

後ろを振り返ってはいけない。
前だけを見つめ、後ろから飛んでくる声に必死になって返した。
振り返れば、心から悲鳴をあげる羽目になる。
今、自分は追われているのだ。
清潔感溢れる真っ白なシーツ……ではなく、リアルさを追究された、あのイワトビちゃんよりも何十倍も不気味な、女の顔に。
大きく見開かれた目からは涙が零れているのだが、何故だか赤い。

「マコちゃーん! トリックオアトリートだよー!」

その気色悪い物体から放たれるのは、確かに知愛美の明るい声。
あの布の中身が彼女であるのは解っている。
解ってはいるのだが、襲い来る顔にこの上ない恐怖を抱いてしまい、走らざるを得なくなるのだ。

「ハル、助けてー!」
「やめろ! 来るな!」

あの遙さえ青ざめ、全力で避けるのだから知愛美のセンスは驚異的であるとは思う。
その日一日、顔に追いかけられた真琴は恐怖に身体と精神を蝕まれ、疲れ果てた姿で家に帰ったのであった。
夢に出てきたらどうしよう、そんな心配をしてしまうくらいには印象が濃い。


結局その晩、真琴は十分に眠ることができなかった。



翌朝、真琴はいつも通りに遙を家まで迎えに行った。
再び訪れた日常に安堵しつつ、昨日起きた出来事は夢だったのだと自身に言い聞かせる。

「ハルちゃーん! マコちゃーん! おはよー!」

朝からよく弾ける知愛美の声が、玄関先の方から聞こえてきた。
相変わらず朝から喧しい奴だ、と嫌な顔をする遙を促す、これもいつもの風景だ。
嗚呼、平穏とはなんと素晴らしいことか。
何だか清々しい気分で、外で待つ知愛美を出迎えるべく、玄関の戸を開けた。

「ちあ、おはよ」

次の瞬間、真琴は腹の底から絶叫した。
彼等を待っていたのは、昨日、散々に真琴を恐怖へと陥れたあの怨念に満ちた気色の悪い顔だった。



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