10/01 ( 21:44 )
伝統の冥土喫茶

ドラマCDネタです。
あの体格で女装は……うん、キツい。

滴は目の前の異様な光景にとてつもなく衝撃を受け、絶句した。
目を真ん丸にしたまま表情を凍りつかせ、呆然と立ち尽くしながら、脳内で状況を整理する。
まず、ここは男子校のはずである。
その男子校で何故、メイド服を着ている人間がいるのだろうか。
そしてそのメイド服を着ているのは、なんと筋肉質で体格の良い男達。
何より衝撃的なのが、その中によく見知った男が混ざっているという事実である。
病的に筋肉美を愛している江は、横で恍惚とした眼差しを女装した兄に対して送っている。
さすが江、彼女のセンスは並外れている。
何やら凛の後輩、似鳥とも意気投合してしまっている。
ちなみに、似鳥もメイド姿である。
この光景を受け入れられていないのは自分だけなのか、自分だけがおかしいのか。
そんな錯覚にさえ陥ってしまいそうになるが、気まずそうに顔を強張らせている凛を見ると、周りが異常なのだと思えた。

「凛くん……」
「な、なんだよ」

嗚呼、彼に何と言葉をかけてやればいいのだろうかと、思わず口ごもってしまう。
とてつもなく重い沈黙が流れている。
と言ってもそれは凛と自分との間だけで、江は未だ似鳥と筋肉美とメイド服について熱く語り合っている。
何か言ってやらねばならない。
何か、彼を傷つけない言葉を、何か……。

「よ…………よく似合ってるよ!」
「ハァ!?」

そんな器用な言葉が、そう易々と思いつくはずもなく。
気休めにも程がある、全くもって投げやりな言葉を押し付けると、彼は慄いた。
申し訳ないとは思っている、一応。
いたたまれない空気に包まれたこの場所から逃れるべく、滴はそそくさと江のところへ駆け寄った。

「江〜! そろそろ違うとこ回ろ〜!」
「あっ、オイ! 待て、滴!」

後ろで凛が慌てて必死に引き留めようと声をあげているが、逃げるが勝ちである。
それからずっと江の後ろに隠れていたため、凛と会話することなく鮫柄学園の学園祭を回った。

やはり離れてしまった彼との距離を埋めるには、まだまだ時間がかかりそうである。
とにかく今日の一件で、また少し離れてしまったのは言うまでもなかった。



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