07/29 ( 21:28 )
進む道はきっとひとつ

OVA浪速の王子様より。
みんなが大阪満喫してる間、ふたりでデート?してました。




耳が覆われる程に煩く聞こえる蝉の声。
真っ青な夏空の下は、何もしていなくても汗が肌に浮き出るほどの熱と湿度に覆われていた。
噂通りなのか思い込みなのか、自らの住む地以上の気温にすっかり体力を奪われ、少しばかり体の動きが鈍くなる。
額から流れる汗はいくら拭いてもキリがないので、もう諦めた。

「大阪ってやっぱあっついよね」
「いやいや、そない変わらんやろ」
「そうかなぁ」

あっさり隣を歩く白石に否定されてしまったが、そんなはずはないと思った。
が、これ以上は反論する気力も起きないので、口をつぐむ。
それからしばらく、沈黙が流れる。
相変わらず蝉は残り少ない命を生き急ぐかのように鳴き続け、時たま、自転車が横を通り過ぎたり、飼い主に散歩に連れられた犬が軽く吠えながら、ふたりを追い越したり。
何を話そう、その間、上手く働かない思考でぼんやりと考える。
正直、彼とふたりきりになるのは少し緊張してしまう。
彼に改めて告白されたものの、その場の状況により返事をし損ねて、そのままうやむやにして過ぎてしまった。
それ以降、彼からその話が出ることはない。
何だか気まずくて、どう接していいのかわからない。

「……なぁ」
「はっ、はい!」

突然、話しかけられ、びっくりして思わず声が裏返ってしまった。
すると、白石はぷっと吹き出した。

「何や、その情けない声」
「あ、いや、そのっ」
「気にしてるんやろ? 告白の返事、まだしてへんって」
「なっ、なんでわかるの!? 蔵ちゃん、エスパー!?」
「や、俺、あんな上半身裸のおっさんちゃうから。優衣ちゃんがわかりやすいだけや」
「うぅっ」

我ながら動揺しすぎて、恥ずかしい。
でも何より、白石に見透かされていたことが一番恥ずかしい。

「あ、あのっ……」
「ええで、優衣ちゃんが返事したい時で」
「えっ?」

はっ、と顔を上げると、彼は優しい笑みを浮かべていた。

「昔はあんな約束したけど、俺ら、あんまお互いのことまだよう知らんやろ?」
「う、うん」
「俺はその、優衣ちゃんのこと、やっぱり好きや」

ちょっぴり照れくさそうに、改めて告げてくる彼に、こちらまで照れてしまって、何だか顔が熱く感じた。

「けど、優衣ちゃんはまだ迷とる」
「ん……」

ちくりと、罪悪感で胸が痛む。
あの約束のことばかり先攻して、彼自身のことをよく知らないのも、本当に『彼』が好きなのかわからないのも、本当のこと。

「優衣ちゃんがホンマに俺のこと好きやって思ってくれるように、俺は努力するつもりや。せやから、焦らんでええ。な?」

優衣は目を丸くした。
彼の懐の深さには、恐れ入る。
同時に、昔、きっと恋した彼そのもので、嬉しくて、胸が騒いで。
本当は今だって、きっと……。

「返事はもう少しだけ待ってほしいけど、これだけは言えるよ」
「ん?」
「蔵ちゃん、大好き!」
「なっ!」

彼が面食らって立ち止まった間に、優衣は早歩きで前へ進んでいく。
顔が熱いのは、暑さにやられたせいだ。
だってこんなにもうきうきしているから、きっと。

彼に用意する答えは、実は決まっているんだと思う。



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