02/17 ( 22:57 )
招かれざる客人たち

なるほどくんたちがラビリンスシティに来てすぐのお話。
パン屋のナルホドーの違和感は半端ないですよね。


香ばしい匂いに誘われるように、クロワのパン屋を訪れたハイリー。
ふっくら焼き上がったパンたちが店頭に陳列されており、視覚的にも食欲をそそられる。

「クロワさん、こんにちは」
「いらっしゃい」

ふくよかな体つきの、この店の主が出迎えてくれた。
おおらかで気前が良く、とても優しい女性だ。
ここで働くマホーネにとっては、母親のような存在。
それなら、ハイリーにとっては親友のおばさんといったところか。

「いらっしゃいませ!」

店の中に入ると、鋭く大きな声に心臓が止まるかと思った。
びっくりして固まっていると、何事もなかったかのように振る舞う少女。

「あ、ハイリーちゃん。こんにちは!」
「……マヨイさん、ナルホドさん。こんにちは」
「こんにちは。今日も来てくれたんですね」
「ええ。ここのパンはとっても美味しいから」

尖った頭の男は、青いスーツに白いエプロン。
風変わりな少女は、どこかの国の装束らしき服装に白い割烹着。
彼らもこのパン屋の従業員である――それが、この街に巻き込まれた彼らの設定。
彼らはつい先程、手違いで『外』から連れてこられた。
ジョドーラの手によって。
彼らとは初対面なのだが、彼らの中では店の常連として認識されている。
そう、記憶を植え付けられたのである。

「いつものでいいのかい?」
「はい。そういえば、マホーネは留守?」
「マホーネなら今、お使いに行ってくれてるよ。もうすぐ帰ってくると思うんだけど……会っていくかい?」
「今日はあまり時間がなくて。マホーネによろしく伝えておいてもらえませんか?」
「わかったよ。それにしてもあんた、最近忙しそうだねぇ。くれぐれも、無理するんじゃないよ」
「ええ、ありがとうございます」

お金を払って、パンの詰まった袋を受け取る。
焼き立てのパンの熱と、ふっくらとした感触が袋越しに伝わる。
未解決の事件の捜査、そしてジョドーラの計画と、やるべきことは多々あるが、ここのパンがあれば乗り切れる気がしてきた。
マホーネとはまた明日、顔を合わせればいい。
そして。

「ありがとうございました」
「またね、ハイリーちゃん!」
「ええ、また」

新入りのふたりに暫しの別れを告げ、店を出た。
彼らは『外』の法廷で、あらぬ罪を着せられたマホーネの弁護をしたのだという。
それこそが、手違いだった。
きっと彼らとはまた、会うことになるだろう。
不確かな、しかし強い予感を抱きながら、ハイリーはパン屋の常連から検察士の顔へと戻っていった。



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