02/14 ( 16:48 )
いつかのための約束

しえりんと春歌ちゃんの小話。
しえりんで文章書くの初めてだったので、なんだか新鮮でした。



「はぁ〜、これじゃダンスの練習できないよう」

椅子に深く座り、包帯が巻かれた右足首を見下ろしながら深く溜息を吐いた。
少し動かすだけで激痛が走る。
これでは歩く気さえ起きず、もちろんそれ以上のことなどできるはずもなかった。
医務室でも、しばらくは安静にと言い付けられている。
すっかり気分は憂鬱だ。
連れ添ってくれた春歌も心配そうに、詩依璃の足首を見つめている。

「これじゃあ歩くのもつらいですよね……あの、わたしにできることならお手伝いしますから、何かあれば言ってくださいね!」
「ありがとうはるるん〜! あとで林檎先生にも言っとかなくちゃなぁ」

親身になってくれる春歌に感極まって抱きつきつつ、今後のことを考えるとつい気分が落ちてしまう。
まだまだ未熟な歌に専念できるのはいいことだが、詩依璃にとってダンスはパフォーマンスの中で一番得意かつ好きな分野なので、練習を一日でも怠るというのは精神衛生上にもよろしくはないのであった。

「つまんない。早く治んないかなぁ」
「詩依璃ちゃんは本当にダンスが好きなんですね」
「うん、大好きだよ! 体動かしてると楽しいし、見てる人が喜んでくれるとますます頑張っちゃうよね!」
「わたしは得意ではないので、あんなにキレのあるダンスができる詩依璃ちゃんが羨ましいです」
「やっだー、嬉しいこと言ってくれるんだから〜!」

再び、春歌に抱きついてみせる。
その度に春歌はたじたじになるのだが、決して拒む様子はないので気にすることはない。
音也たちに文句を言われるのが少々面倒ではあるが。

「でもわたしね、ダンスに気合い入れだしたのって中学の時なんだよ」
「え、そうなんですかっ?」
「うん。習いだしたのは小学校入る前だったんだけど。中学の時、クラスメイトの子がいじめられてて、毎日ひとりぼっちで、陰で泣いてたの。わたし、どーしてもその子の笑顔が見てみたいなぁって思ってて、ダンスの大会に出るから観に来てほしいって誘ってみたの」
「その方は、来てくれたんですか?」
「うん! 終わった後にわざわざ駆け付けてくれてさ。楽しかったってすっごくいい笑顔で言ってくれて、それがすーっごく嬉しくて。その時、決めたんだ。アイドルになって、テレビにいーっぱい出て、わたしのパフォーマンスでたくさんの人を笑顔にしたいってね!」

気付けば、拳に力を入れて語っていた。
思えばこんな風に、過去のことを話すのは初めてかもしれない。

「詩依璃ちゃんなら、きっと叶えられると思います!」
「はるるんにそう言ってもらえると、ますます気合い入っちゃうなー! あ、わたし、いつかはるるんの曲で歌って踊ってみたいんだよね。音くんの前でこんなこと言ったら絶対文句言われるけど」
「わたしに、詩依璃ちゃんの曲なんて書けるでしょうか」
「書けるよ! わたし、はるるんの曲大好きだし!」
「ありがとうございます! わたしもいつか、詩依璃ちゃんの曲を書いてみたいです!」
「よし、じゃあ約束!」
「はい!」

いつか、お互いにプロになって、立場は違えど同じ舞台に立てるように。
固く固く誓いを立てて、すっかり気力が漲ってきて。

「よーし、そうと決まったらこんなところでくよくよしてる場合じゃないね! 練習れんしゅっ――いったああああ!!!」
「ああっ、詩依璃ちゃん! 大丈夫ですか!?」

足を痛めていることも忘れて、力強く立ち上がってしまった。


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