02/14 ( 16:45 )
2/14の誓い

いつものふたりでバレンタインネタ。
チョコを渡すのもいいけど、こういうのもありですよね。





なんだか、ちょっと恥ずかしいかも。足下に置いた紙袋の中で、薄い紫色の包みで包装されている花束を見下ろして、擽ったい気分になった。
真っ赤な薔薇は紙袋の白の中で非常に映えていて、存在感を主張している。
緩やかに進む電車の揺れに体を預けながら、窓の外で移り行く薄暗い景色から、車内に視線を移す。
洒落た小さな紙袋を持った女性や、鞄の中に忍ばせている可愛らしく飾られた長方形の箱を覗き見る女の子など、ちらほらと今日という日に備えてきたであろう同士たちが見受けられる。
が、さすがに薔薇の花束を携えている人は見られない。

(笑われたらどうしよう)

想像して、肩を竦める。
バレンタインの日に、チョコレートではなく十一の薔薇を用意してきただなんて。
だって、これしか思い付かなかったのである。
何といっても彼は人気アイドルなので、きっと多くのファンからチョコレートや焼き菓子が贈られてくるだろう。
その時点で、食べ物は除外するという選択に迫られた。
それから何がいいだろうと散々に悩んでいる最中、海外では男性から愛する人に花を贈るものだと知った。
そして更に調べていくうちに、薔薇の本数による意味の違いを知り、これだと決まったわけである。
彼ならきっと、真摯に受け止めてくれると信じている。
信じてはいるが、空回ってしまうのではないかという不安もやはり過る。
期待、不安、緊張……目的地に着くまでの間、それらがぐるぐると入り乱れていた。



「優衣」

駅の改札を出ると、聞き慣れた優しい声が出迎えてくれた。
無性に愛おしさが込み上げてきて、頬が緩む。

「お疲れ様。まさか、今日会えるなんて思わなかった」
「今日はグラビアの撮影だけでしたから」
「そうだったんだ」
「それに、今日は大切な日ですからね」

ふっ、と目を細めて微笑むのがマスク越しにもわかった。
期待されていたのだと思い、ますます緊張で体が固くなってしまう。

「あっ、あのっ!」
「ここでは人目につきますから、しばらくのお預けですね」
「あ……」

くすりと小さく笑う彼に、すっかり翻弄されてしまっている。
やっぱり敵わないと、眉を下げて笑った。
最近の出来事を他愛ない話として交わしながら、肩を並べて夜道を歩く。
それが貴重で大切な時間に思えてならなかった。



場所を彼の部屋に移して、落ち着いた頃、ようやく渡す時が来たと密かに勇む優衣。
どうか笑われませんように。
なるようになってしまえ、と半ば投げやりにもなりつつ。

「トキヤくん!」
「ん?」
「あのね、渡したいものがっ」
「待ってください」
「えっ?」

紙袋に手を伸ばした瞬間、制止がかかり、手を止めると同時にきょとんとして隣にいる彼を見る。
すると彼は、彼の足下に置かれている紙袋を漁って、取り出した。

「優衣。Happy valentine」

彼の手には、薔薇の花束。
穏やかな笑みを湛える彼に咲き添う薔薇たちは、情熱的な赤を燃やしていた。
それを目に映した途端、優衣の胸にも同じ色の感情が燃え広がった。
熱く、焼き尽くすほどの喜びが。

「これっ……」
「私の気持ちです。十一本の薔薇、意味は――」
「最愛」

重ねるように呟くと、彼は目を丸くしてこちらを見つめた。

「えっ?」
「まさか、全く一緒になっちゃうなんて思わなかったなぁ」

苦笑しながら、白状する代わりに現物を出して見せる。
彼の用意したものと同じ、十一本の深紅の薔薇。
しばらく呆然とした後、不意に、トキヤが小さく吹き出した。

「あっ!」

笑われてしまった。
思わずがっかりした声色を漏らした、が。

「私たちの想いは同じだったということですね」

彼が本当に嬉しそうにするものだから、そんな気持ちも吹き飛んでしまった。
つられて、幸せに笑みを溢す。

「以心伝心だ」
「ええ。せっかくですから、一緒に並べて飾りましょうか」
「うん!」

水差しに生けられる薔薇たちは、淡白な彼の部屋の中で華やかに戯れている。
芳しい薔薇の香りは、ふたりだけの密室を彩る。

「二十二本かぁ。これも意味あるのかな」
「幸運。だそうですよ」
「幸運?」

それが、互いを最も愛す者たちの幸運を祈るように、強く咲き誇っているように見えてきて。

「私たちにぴったりでしょう?」
「そうだなぁ……もういい加減、幸せになってもいいよね、あたしたち」
「当然です」

ほんの皮肉も込めて、笑い合う。
仲を引き裂かれて、愛を試されて、それでもふたりは戻ってきた。

「もう何があっても絶対に離れてやんないんだから」
「ええ。絶対に、離しません」

そっと手を触れて、指を絡める。
その誓いの通り、次第に強く固く結びついて、そう簡単には解けない。
甘やかな香りに包まれたふたりは、熱の籠った眼差しで見つめ合い、そして。
その燃え盛る思いのままに、唇を重ねるのであった。


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