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魔法使いのいないおとぎばなし(前編)

トキヤくんと優衣で童話パロです。
元はシンデレラですが、魔法使いもいなければかぼちゃの馬車もガラスの靴も綺麗なドレスもありゃしません。
長くなりそうなのでとりあえず前編だけ。




とある小さな村に、いつも灰を被ってばかりの哀れな娘がおりました。
娘の名前は、優衣。
優衣は幼くして母親を亡くし、父親も新しい妻を娶ってすぐに、亡くなってしまいました。
一緒に住んでいるのは継母と、三人の義理の姉たち。
彼女たちは優衣を奴隷のように扱い、粗末な衣服と食事を与え、掃除も洗濯も何もかも、優衣に任せっきり。
自分たちは美しく着飾り、毎日遊んで、贅沢に暮らしていました。
でも、彼女たちの言うことさえ聞いていれば、最低限の衣食住が与えられるので、優衣はずっと素直に従ってきました。
良い子にすることで、今の居場所を守ったのです。

ある日、家に招待状が届きました。

今宵、王様たちの住むお城で舞踏会を開き、そこに国中の女たちを集め、若き王子の結婚相手を探すというのです。
王子のお眼鏡に適えば、この国のお姫様になれる。
継母と姉たちは張り切って、舞踏会へ行くための支度をしました。
もちろん、優衣は家のことを任されていますし、継母や姉たちのような美しいドレスやアクセサリーも持っていないので、舞踏会には行けません。

「いい? あなたはちゃんとお留守番をして、掃除を済ませておくのよ?」

釘をさすように言われてしまったので、従わざるを得ません。
普段以上に着飾り、馬車に乗り込む彼女たちを、羨ましく思いながら見送りました。
そして残された優衣は、掃除に励んだのでした。

「いいなぁ。お城で舞踏会だなんて、あたしには無縁の世界だよ」

灰や埃にまみれたこんな姿で、舞踏会なんて到底行けない。
優衣は舞踏会に強く憧れていました。
しかし、この家に縛りつけられている以上、村を出ることもできません。
ましてや王子様なんて、雲の上の存在といえるでしょう。

「王子様かぁ、どんな人なんだろう」

この豊かな国を治める王様や王子様は、きっと素敵な人なのだろうと思いました。
一目だけでもいいから、見てみたい。
王子様のお妃になんてなれなくていい、ただ一度、お姿を目にできればそれで満足でした。

「いつも頑張ってるんだし、ちょっとくらい……抜け出しても、いいよね」

次第に願望が強くなり、悪い考えが浮かびました。
ちょっとだけ、そう自分に言い聞かせて、優衣はお城に行くことを決意しました。
今まで自由に使うことのなかった少量のお小遣いをかき集め、家を飛び出して、お城を目指したのです。
継母たちのように綺麗なドレスは持っていませんでしたが、どうせ王子様に会うこともないだろうと、薄汚れた格好のまま村を出ました。
村からお城まではかなり遠く、徒歩で行くには無謀な距離だったので、途中で馬車を訪ねました。
お小遣いを全て使い果たしてしまいましたが、おかげで無事に、お城に辿り着くことができました。
しかし、お城の門にはお城を守る兵士が立っていました。

「すみません」
「ん? 何だ、君は」
「あの、舞踏会に行きたいんですけど」
「舞踏会に? その格好で?」
「うっ。駄目……ですかね?」
「駄目だ。そのような小汚ない格好で、王子に会わせられるわけがないだろう」
「お会いできなくていいんです! 一目見たらすぐ帰りますから!」
「駄目だ。どこから来たのかは知らないが、君の来ていいところじゃないんだ。帰りなさい」
「そんなぁ……」

固く拒否されてしまい、優衣はひどく落ち込みました。
しかし、これ以上頼んでも兵士は聞き入れてくれなさそうだったので、惜しくも諦めることにしました。
しかし、気づいてしまったのです。

「帰りの馬車のお金、ないんだった」

行きの馬車でお金を使い果たしてしまったことを、すっかり忘れていました。
帰るにも帰れず、途方に暮れた優衣は、普段は考えない突拍子もないことを思いつきます。

「せっかく来たんだし……ちょっとくらい、大丈夫だよね」

塀に回り込み、傍に生えている大きな木によじ登ったのです。
途中、靴が脱げ落ちてしまいましたが、お構い無し。
てっぺんの辺りまで登ったところで、大きな窓が見えました。
そこには舞踏会の様子が映し出されていて、そのきらびやかな光景を見ると、やはり自分には縁のない場所だったのだと思いました。
奥の方で、玉座に佇む王子様の姿が見えました。
王子様はとても綺麗なお顔をしていましたが、王子様のために開かれた舞踏会なのに、その表情は何故か曇っていました。
みんな、王子様に会いに来たのに、どうして楽しそうに笑わないのだろう。
優衣は王子様のことが気になって仕方ありませんでした。
夢中になって王子様のことを見つめていると、不意に、王子様と目が合ってしまいました。

「ひゃっ!」

王子様はびっくりして目を丸くし、こちらもびっくりして足を滑らせ、木から落ちてしまいました。
優衣は強く頭を打ち、意識を失ったのでした。

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