07/27 ( 00:15 )
追いかけっこ、かくれんぼ

彼女の心に触れたくて必死なトキヤくんと、彼に触れられるのがこわくて逃げるのに必死な優衣。





時々、彼女が解らなくなる時がある。

「すみません。明日なんですが、急に仕事が入ってしまって……」

明日、一ヶ月ぶりにようやく彼女に会える。
会ったらどんな言葉をかけてあげようか、どんな風に触れよう、どんな時間を過ごそう。
考えているうちにその来たる時が愛おしくなって、待ち遠しくて。
きっと彼女もそんな風に考えてくれていただろうから、マネージャーからの連絡が届いた時は、ひどく罪悪感で胸が痛んだ。
もちろん、自身だって彼女との時間が奪われたことは大きなショックであった。
だから、こうして電話するのも、非常に心苦しかったのだが……。

「そう、ですか……」
「本当にすみません。せっかくの貴重な時間が」
「あ、気にしないでください! お仕事だもん、仕方ないですよ。あたしは大丈夫ですから……気にせず、明日もお仕事頑張ってくださいね!」
「優衣……」

明るく何でもないように振る舞って、大丈夫だと言ってくれる。
理解してくれることはありがたいことなのだが、どこか腑に落ちない部分もあった。
彼女は残念だと思ってくれているのだろうか。
少しでも落ち込んでくれているのなら、それを見せて、受け止めさせてほしい。
せめて、彼女を慰めさせてほしい。
それなのに、彼女は一度も負の感情を見せてはくれない。
頼りにされていないということなのか、信じてもらえていないということなのか。
けれど、そのもどかしさを言葉に出すのはあまりに不躾で、何も言わず、彼女の優しさに甘える。
そんな自分が、ただただ腹立たしかった。



本当は、大丈夫なんかじゃなかった。
明日は久々に、大好きな彼と会える――それが嬉しくて、わくわくして、早く明日にならないかな、なんて子どものように願っていた。
そんな矢先の、彼からの連絡。
空に向いていた気分はすっかり地に落ち、ちょっぴり泣いてしまいそうだった。
だけど、電話の向こうの彼は真剣に、そして申し訳なさそうに、自分のことを思って謝罪してくれる。
その気持ちがありがたくて、勿体なくて、もう聞いていられなくて、平気な振りをした。
精一杯、いつも通りに、明るく、大丈夫って。

「……大丈夫、大丈夫」

自分自身に言い聞かせていた。
寂しいと、会いたいと素直に言えば、彼はどんな顔をしただろう。
困った顔をして、だけど彼は優しいから、また罪悪感を募らせて、慰めてくれただろうか。
そうすればきっと自分はそんな彼に甘えて、いつか、止まらなくなってしまうかもしれない。
そして、いつか――

『あんたのそういうところが大っ嫌いなんだよ!!』

嗚呼、目が熱くなってきた。
じんわりと視界が滲んできたのを誤魔化すために、強く目を閉じる。
つーんと、鼻の奥が痛い。

「悪い子は嫌われちゃうもんね……」

ぽつりと、胸に溜まる熱を吐き出して。
良い子であれるように、足掻いて、もがいて、そうして今までに付いた小さな爪痕たちが、痛んだ。

「大丈夫……大丈夫……」

それは何の効力も持たない、気休めの呪文。
優衣に縋れる、唯一のものだった。



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