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ささやかな嫉妬(再録)

優衣が土方さんのことでやきもちをやくお話。
でも無自覚。



スーパーで買い物をした、帰り道のことだった。
ずっしりと重い、商品が詰め込まれた袋を両手に提げ、一生懸命歩いていたところで、見慣れた姿を発見した。
見廻り中なのだろうか。
浮ついた気分で足を速め、声をかけようと思っていた――が。
彼の傍で綺麗な大人の女性が微笑んでいるのに気付いた瞬間、心臓が跳ねると共にその場で踏みとどまった。
どこをどう見ても、美人。
彼と並んでいるのが様になっているくらい。
見れば見る程、気分が沈んでいった。
ひどく悲しくなって、彼に気付かれたくなくて、踵を返そうとした時だった。

「優衣じゃねーか」

名を、呼ばれた。
ぎゅっと、心臓を鷲掴みにでもされた気分。
恐る恐る振り向くと、何食わぬ顔でこちらを見ている土方と、不服そうにこちらを睨む女性。
邪魔をしてしまったのが、気に障ったのだろう。
その視線が恐ろしくて、優衣はびくりと身を震わせた。

「ひ、土方さん……」

緊張してからからの喉から出たのは、擦れて情けない声だった。
こうなっては逃げるわけにもいかず。
恐る恐る歩み寄るが、女性からの視線はますます凍てついた。

「買い出しか?」
「はい……食堂のおばちゃんが忙しそうだったので」
「だからって、一人で行くこたァねーだろ」

彼は優衣の荷物を見ながら、呆れたように言う。
そして、両手に提げていたそれを半ば強引に取り上げた。

「あっ」
「まあいい、帰るぞ」
「え、でもっ」

優衣は横目で、凄みを利かせて睨む女性を捉えて、ますます身震いした。
二人の時間を邪魔してしまって、いいのだろうか。
躊躇していたのだが、一方で土方はさっさと歩き始めてしまっていた。

「いいから、行くぞ」
「あ、は、はい」

何か言いたげな女性を見て見ぬ振りして、黒い背中を追った。
ごめんなさい、ごめんなさい。
彼女への罪悪感と、彼の言動への疑問で頭がいっぱいだった。

「……はぁ、ナイスタイミングだったな」
「へっ?」

急に立ち止まり、疲れたような溜息を吐く彼。
優衣は思わずきょとんとした。
ようやく追い付き、彼の隣で立ち止まって顔を覗き込むと、大きな手のひらが頭を撫でた。
どきり、と胸がときめいた。

「さっきの女」
「ん?」
「単に絡まれてただけだからな。勘違いすんじゃねーぞ」

真ん丸になった目を瞬かせる。
ばつが悪そうに歪み、ほんのり色づいた頬。
ようやくその意味に気付いた優衣は、同じように頬を染めて。
安心と、ほのかな喜びに胸が満たされ、口元を緩めた。

「……はい」



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