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土方くんと優衣(再録)

3Z設定です。
単発で書いたので前後は特に考えてません。



空は薄暗く、どしゃ降りの雨を地面に激しく叩きつけている。
優衣は屋根の下で、嘆かわしくそれを眺めていた。

「最悪だよ……」

思わず、落胆の声。
午後から雨が降ると知っていて折畳みの傘を家に忘れた朝の自分と、既に学校の傘も全て貸し出されていたという不運な自分を、心の底から憎んだ。
妙や神楽達と一緒に帰るつもりだったのに、待たせると悪いからと先に帰してしまった。
一人、ずぶ濡れになって帰るだなんて虚し過ぎる。
かと言って、雨は明日の朝にかけて降り続けると予報で聞いたので、雨宿りしても意味がない。
とうとう覚悟を決めて、深呼吸をした。

「風邪引きませんように」
「お前、こんなところで何突っ立ってんだ?」
「わあっ! ひ、土方くん!」

いざ、空の下へ――意気込んだにも関わらず、背後からの声に集中力が削がれてしまった。
びっくりして振り返ると、怪訝な表情の土方。

「んな驚くことねーだろ」
「ご、ごめん」
「で、何やってんだ?」
「実はその、傘忘れちゃって」
「傘?」

あはは、と空笑いして答えると、更に訝しむ土方の顔。

「職員室で貸し出してたりすんじゃねーのか?」
「それが、全部貸し出しちゃってるみたいで……これはもう、ずぶ濡れで帰るしかないかなーって思って」
「馬鹿か。風邪引くぞ」

呆れた調子で溜息を吐かれてしまった。

「でも、雨宿りしてたら明日になっちゃいそうだし……」
「チッ」

急に舌打ちされ、びくっと肩を震わせる。
何か気に障ることを言っただろうか。
おどおどしている間に、土方が持っていた黒い傘を差した。
やはり男性用だからか大きく感じる。
そんなことを考えていると、いきなり腕を引っ張られた。

「送ってやるから、入れ」
「わっ! え、ちょっと待って! 悪いよこれ! ていうか、あの……」

恥ずかしいんだけど。
ぐっと言い掛けた言葉を呑み込み、困惑した眼差しで土方の顔を見上げる。
どことなく、照れくさそうに見える気がしなくもない。

「いいから、大人しく入ってろ」
「う……うん。ありがとう」

優衣は素直に従った。
が、いざ歩いてみると距離を保つのが難しい。
離れすぎると、こちら側に傘を寄せてくれている彼の肩が外に出て濡れてしまうし、接近しすぎるのも何だか恥ずかしい。
たどたどしく歩くのに必死で、二人の間にあるのはひたすら無言だった。

「……オイ」
「うん?」
「あんまり離れんな、濡れちまうだろ」
「あっ」

ぐい、と肩を強く抱き寄せられ、二人の距離は零になった。

「ひ、土方くん!」
「悪いがちょっとの間だけ我慢してろよ」

優衣の顔は羞恥のあまり火照るくらい熱くなっていた。
心なしか心臓がいつも以上に脈打っている。
土方は土方で平然を装おうとしているが、ほんのり顔が赤い。
じわりじわりと相手の温もりが伝わってくる。

「ね、ねぇ、歩きにくくない?」
「いや、別に」
「……土方くんって、好きな女の子とかいないの?」
「何だいきなり」
「だって、こんなところ見られたら絶対に誤解されちゃうよ」

少しばかり気まずい空気。
土方は少しの間、思案して口を閉ざした。
激しい雨音だけが聞こえる。

「お前はどうなんだ?」
「へ?」
「お前こそ、見られちゃいけねー相手とかいるのか?」
「あたしは別に……特にはいないけど」

土方の真剣で真っすぐな視線が妙に痛い。

「だったら俺も問題ねェ」
「そう、なの?」
「今ここにいるからな、俺の好きな奴」
「そ、そっか」

なら大丈夫だ。
そう納得しかけたが、ふと違和感に気付く。

「……え?」

今、彼はなんて言った?
好きな女の子が、今、この場所にいると。
この住宅街の路地に今いるのは、土方と優衣ぐらい。
やはりこの大雨の中、外出している人は少ないようだ。
優衣はとんでもないことに気付き、思わず。

「えええぇぇぇっ!?」



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