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鷹と白夜叉(再録)
攘夷時代の銀さんと飛鳥のお話。
ギャグのようでシリアス。
屋根の上で寝そべり、穏やかな青空とふわふわと浮く白い雲を眺める。
『鷹』の日課の一つだった。
こうすると空を飛んでいるような気分になれる。
まるで、鷹にでもなった気分に。
「お前、こんなとこにいたのか」
平穏な空間を邪魔したのは、何とも気の抜けたような声だった。
『鷹』はむっと眉を寄せながら、体を起こす。
「何」
極めて短く問うと、声の主はひょっこり出した白い頭をぼりぼり掻いた。
「高杉の奴が探してたぞ。稽古の相手しろっつって」
「……出掛けたって言っといて」
再びごろん、と寝転んだ。
勿論、言い訳なんて思い付きで適当だ。
しかし彼は納得せず。
「いや、こんな堂々と屋根に梯子かかってりゃ、いるの丸分かりじゃね!?」
「今はそういう気分じゃない」
「本人に言えよ。俺、お前らの伝言係じゃねーし」
「やだ、めんどくさい、下りたくない」
「俺だってめんどくせーわ!」
彼の怒鳴り声を聞いて、またむくりと起き上がった。
「だったらこっちにいりゃいいじゃん」
「は?」
ぽかん、と彼の口が締まりなく開く。
「アンタも道連れにしてやるっつってんの」
「それってお前、俺のこと誘ってる?」
彼は嬉々として梯子から屋根の上に乗り、『飛鳥』に抱き付いた。
『飛鳥』は目を逸らし、何食わぬ顔で。
「悪の道にね」
「や、そーじゃなくて! お前さー、もうちょっと女としての自覚持てよ」
嘆くように言う彼に、深い溜息を吐く。
瞳には、憂い。
「言ったっしょ。あたし達が立つのは戦場。女とか男とか、そういう情は持つなって」
「……それができたら苦労しねーよ。俺はガキの頃から、お前のこと女として見てたんだからよ」
体に巻き付いた二本の腕が、より強く食い込む。
彼の言葉には、重みがあった。
『飛鳥』は驚きも受け入れも拒みもせず、ただ哀しげに。
「ばーか」
虚しく、響いた。
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