11/22 ( 23:39 )
卒業(再録)

氷帝と優衣。
ちょうどそういうシーズンに、某教授と魔神の笛エンディング曲を聴きながら書きました。
一応、全員が高校そのまま上がるという設定です。




春の陽気が訪れる気配を感じながら、優衣はテニスコートの中心で寝転んでいた。
制服が汚れようが、そんな小さなことは気に留めない。
清々しく爽やかな空の色、ふんわりと浮かぶ白い雲の流れをただ見上げる。
校舎内はまだまだ卒業生が残っていて騒がしい。
今頃、仲間達は大勢の女子に捕まっているのだろう、と思うと何だか可笑しかった。
しかしそんな賑やかさも遥か遠くに聞こえ、このテニスコートはとても静かであった。
でも、目を閉じればリアルに感じる。
打ち合うボールの音、飛び散る汗、熱の籠もった声、熱気。
ここで彼らは闘ってきたのだ、己と。
今日でこの場所ともお別れ。

「今までありがとう……」

彼らがあのジャージを着て並ぶ光景が目に焼き付いて離れない。
真っすぐに目標を捉え、進んでいく背中。
それを追うのが楽しくて、夢中で彼らの後を駆けた。
彼らを支えるどころか、沢山の力を貰った。
そしていつの間にか、自分も一本の道を突き進んでいたのだった。
優衣は目を閉じて大地からの熱を感じながら、空に向かって腕を伸ばした。

――その時。


「お前、こんなところで何寝てんだよ」

呆れた声が降ると共に、温かい手が優衣の手を包み込んだ。
反射的にぱちっと目を開けると、覗き込む仲間達の顔が映った。

「ずっと探しとったんやで?」
「お前なぁ、ジローでさえ起きてたってのに……」
「Aー、その言い方酷くない?」
「お前が一番に寄ってくると思って、待ってたのによ」
「本当、意外だったね」

呆れてはいるものの、その表情は優しくて心地よかった。
優衣はつい頬を緩め、少しだけ目を細めた。

「みんなとはまたいつでも会えるもん。でも、このテニスコートとはお別れでしょ?」

宍戸は納得し、頷く。
改めてしみじみとテニスコートを眺めながら。

「あぁ……それもそうだな」
「本当に色々あったよなー。この三年間」
「亮は髪切っちまうしよ」
「俺、この三年間がいっちばん楽しかったC」
「せやな……」

しかし跡部は違った。
フン、と鼻で笑うと、頼もしい笑みを浮かべてこう言った。

「何言ってやがる。俺達はまだ終わってねぇだろ」

高校で、成し遂げられなかった全国制覇を目指して再び歩きだす。
これは終わりなのではない、始まりだ。
彼の眼がそう告げていた。
仲間達は顔を見合わせ、ふっと笑い合った。

「もちろん、お前も一緒だ」

跡部は優衣の手をそのまま引っ張り、起こして立ち上がらせた。
まだまだ続いている果てのない道が優衣には見えた。

「うん!」

また、同じメンバーと共に闘えることを信じて。
思い出の地にさよならを伝えた。





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