11/22 ( 23:10 )
醜い世界の中で、真っ白な羽根を見つけた(再録)

那月と久門のお話その2。
このふたりは光と影っていうイメージがあります。





いつものように教室に入れば、いつもの友達が話しかけてくれる。
当時、莉緒はそんな風に錯覚していた。
だから、いつも通りの朝がいつも通りでなくなり、周りに誰もいなくなってしまった時、ひどく戸惑いを覚えた。
あんなに仲良くしてくれていた女子数人が、莉緒だけを仲間外れにして談笑している。
その光景は、いつも通り。
その中に莉緒がいないことを除いては。
仲間に入れてほしい、その一心で彼女達に話しかけると。

「あの……おはよう」
「ああ、おはよう。久門さん」

友達と思っていた彼女達は、楽しい空間を邪魔されたと言わんばかりに不機嫌に顔を歪め、無感情に返した。
莉緒と、呼んでくれていたその声で。
わからなかった。
どうして彼女達がこんなことをするのか。
呆然とする莉緒をよそに、再び話し始める彼女達。

それから、莉緒は一人で過ごすことになった。
仲間外れにされたのはショックだったが、一人の時間は好きだ。
何も苦にはならない。
これは真実。
ただ、その日から、周りの人間達を深く観察するようになった。
そこで初めて、自分の目は世界の表面しか映していなかったことに気付いた。
心なく笑いながら平気で嘘を吐いて、影では醜い笑顔で気に入らない人間の悪口を言い合う。
誰が好きで、誰が友達で、その裏では誰が気に入らないで、誰が敵で。
この小さな教室という世界は、そんな風に回っていた。
嘘で構成された、冷たい世界。
この世界の人間は皆、欺瞞という仮面で身を護っている。
ただ、自分だけが無防備だった。
愚かなのは彼女達ではなく、自分だったのだ。
そう学んだ日から、莉緒は自分を偽るようになった。

興味ナイ――面白い。
ツマラナイ――楽しい。
心ガ痛イ――平気。

次第に、友達ができるようになった。
友達――上辺だけの繋がり。
生きていく上で自分の過ごしやすいように、自分の都合の良いように利用するための駒。
彼女達の心に触れる気はないし、この心を彼女達に触れさせる気もない。
たとえ心が軋むような音を立てても、気付かない振りをして。
気付けば自分自身が嘘の塊へと変貌を遂げてしまった。
自分の本心はどこにあって、今、自分は何を感じているのか――それさえ見失ってしまった。

ただ、音楽は好き。
可愛いものが好き。
昔からそうだったのだから、これは唯一信じることのできる真実だった。


「莉緒ちゃんも。お昼、みんなで一緒に食べませんか?」

既成の曲に触れるのも好きだったが、音楽を創造するのはもっと好き。
自分の中で純粋に輝くそれを頼りにして来たのが、早乙女学園。
レベルの高い作曲の勉強ができるこの環境は、莉緒にとって夢に満ちたものだった。
かつていたあの中学という場所がどんなに汚れていたことか、思い知った。
ここもただ綺麗な場所というわけではなかったが、少なくとも莉緒の周りにいる人間達は、汚れてなどいなかった。
既に偽ることに慣れてしまった自分という存在が、醜く感じるくらい。

「……ん、行く」

莉緒が小さく頷くと、那月は心から嬉しそうに笑った。
彼は莉緒のパートナー。
暖かくて、とても綺麗な心を持っている人。
莉緒とは正反対の人間。
羨ましくて、眩しくて、目を背けたくなる。
でも、一緒にいると心地好くて。

きっと、彼が好き。
これは紛れもない、真実。

自分がこんな感情を抱けるなんて、思わなかった。
だけど、この想いは伝えてはいけない。
伝えてしまったら、彼の夢を奪うことになるかもしれないから。
それ以上に、こんなに醜い自分は無垢な彼には不釣り合いだとわかっているから。
どうか、気付かれないように。

真実を見なかったことにして、また一つ嘘を重ねた。



back



「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -