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またもや災難

セレナーデで、へぶんずの鳳瑛一が絡んでくる話。
正直、キャラを完全なる当て馬にするのはとても抵抗があるのですが、彼ならいいかなと失礼ながらにも思ってしまいました。
なんか、そういうポジション似合いますよね、彼…。




彼との交際が社長に認められ、元通り以上の日々を送るようになって、一ヶ月。
彼の仕事はますます忙しくなり、会えない日も多いが、彼は毎日欠かさずメールを送ってくれるし、少しでもと時間を作ってくれる。
それに、彼の活躍をテレビや雑誌で見守っているため、決して寂しくはない。
彼のことを想う毎日が幸せで、充実していた。

そんな矢先、優衣は新たなる問題を抱えることになる。


「遠慮することはない、マイエンジェル。全て、俺に委ねてくれ」
「いや、あの、なんというか……」

目の前の男は、こちらの困惑には全く気付いていない様子。
むしろ自信に満ち溢れた表情で、こちらを見据える。
彼の好意はありがたいのだが、あまりにも積極的で、そして一方的で、だんだんと申し訳なくなってくる。
それも、相手は今をときめく人気アイドルである。
鳳瑛一――そのカリスマ性とルックス、そして歌唱力で全国のファンを惹き付けていることは、優衣も知っている。
自分に確固たる自信と誇りを持っているからこその、堂々たる佇まい。
テレビ越しで見ていて、凄いなぁと率直に思ったものだ。
まさかそんな彼に、こうして好意を抱かれ、半ば執着されるとは思わなかった。

「貴重なオフなのに、あたしなんかといて大丈夫なんですか?」

これは、純粋な疑問だった。
数日前にメールで誘いを受け、まあ特別に何かある日でもなかったので、こうして街中で変装した彼と待ち合わせたのだが。
彼も相当忙しいはずだ。
たまのオフに、ゆっくり身体を休めなくていいのだろうかと、少し心配にはなった。
しかし、当の本人は全くそんなことを気にしている様子ではなく。

「嗚呼、お前のその純粋な優しさが俺の心を昂らせる……」
「あのー、話聞いてます?」
「心配はいらない。お前は俺の天使だ。お前のためなら俺の全てを捧げよう」
「それは、えー……お、恐れ多いです」

彼の世界に付いていくのは至難の業。
そして、押し寄せられる多大なる好意に、どう応えていいものかと悩まざるを得なかった。
正直、彼のことは少し苦手である。
決して嫌いではないのだが、こう、あまりにも押しが強くて、一歩引いてしまう。
せめてお友達として苦手意識をなくそうと試みているのだが、なかなか難しいものである。

(大丈夫かなぁ、今日……)

正直なところ、不安しかないが、夕方からは愛しの彼に会える。
それに、目の前の彼も悪い男ではない。
楽しめるだけ楽しもうと、意気込みながら鳳の後ろを歩いた。



「トキヤくん会いたかった! すごく会いたかった!」
「優衣っ? 突然、どうしたんですか」

鳳と別れた後、トキヤと別所で待ち合わせて、彼の部屋を訪れた直後のことである。
極度の緊張から解放された安心感と、彼と会えたことへの喜びで胸がいっぱいになり、衝動的に抱きついてしまった。
彼は戸惑いながらも、優しく抱き留めてくれた。
大好きな彼の匂いと温もりに包まれて、ひどく安らいでしまった。

「やっぱりあたし、トキヤくんが好き……大好き……ほんとにほんとに愛してる」
「あの、そう言っていただけるのは非常に喜ばしいのですが……優衣、何かあったんですか?」
「あった。けど、いいの。トキヤくんがいてくれたらそれでいいんだよ」
「はぁ……」

トキヤは怪訝に首を傾げているが、優衣は彼に理解してもらう気はなかった。
余計な心配をさせたくはない。
それに、今の言葉は正直な気持ちだったから。

ただひとつ、鞄の底に隠してある例の彼からのプレゼントが、ちくりと罪悪感を抱かせた。



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