10/24 ( 21:44 )
Trick yet treat!(再録)

はっぴーはろうぃーん!なセレナーデのふたり。
せっかくなので移してきました。





ソファーの背もたれに背中を預け、この胸にもたれかかる小さな体を後ろから包み込むように抱きしめる。
腕に抱え込んだ心地好い温もりが胸に伝わり、安心に満たされる。
彼女も同じように感じてくれているらしく、締まりのない笑みを浮かべ、顔を上げて嬉しそうにこちらの顔を覗き込んできた。
愛おしさが溢れ、堪らずその額に口づけを落とす。
彼女は一瞬、びっくりして肩を竦め、恥ずかしそうにはにかんだ。
思わずこちらまで口元が緩んでしまう。
彼女が見せる表情は、彼女が持つ空気は、不思議とそんな力があった。
そうして何でもない時間をただ二人だけで過ごしていた。

「あ、そうだ」

突然、優衣が思い付いたように声をあげた。
そしてにぃっ、と口角を上げて。

「トリックオアトリート」

思わず、呆然としてしまった。
そういえば今日はハロウィンだったのだと、今この瞬間になって思い出した。

「……すみません、何も用意してません」
「ええーっ!」

優衣のあからさまにがっかりした顔を見て、何だか小さな罪悪感が生まれた。

「楽しみにしてたのに……」
「今日がハロウィンだなんて、すっかり忘れてたものですから」
「うー、残念」

しゅん、と項垂れる姿はまるでお預けをくらった子供のようで。
彼女には悪いと思いつつ、可愛らしく思ってしまった。
しかし、優衣が落ち込むばかりでそれきり話が進展せず、拍子抜けすると共に、疑問を抱く。

「それで?」
「ん?」
「悪戯、するんじゃないんですか?」
「あー……悪戯ね、悪戯……」

思い出したように、歯切れ悪く呟く彼女。
うーんと軽く眉を寄せて唸りだした辺りから、既に嫌な予感がしていた。
そしてその予感は虚しくも、間もなく的中することになる。

「……悪戯って、何すればいいのかな」
「考えてなかったんですか」
「うん、お菓子貰うことしか考えてなかった」

あはは、と呑気に苦笑いする優衣に、呆れて溜息が零れた。
内心、優衣に悪戯されることを期待していて、悪戯を免れてがっかりしてしまったことは、胸の内ににしまっておいた。
不意に、トキヤの中で閃く。
悪戯してくれないのなら、こちらから仕掛けてやればいい。
そう思うと何だか愉快に胸が騒ぎだし、気分が昂ぶった。
不敵な笑みを浮かべながら、優衣の耳を隠して流れる髪を退け、唇を寄せて。

「それなら、私が代わりに悪戯してあげますよ」
「んっ!」

わざと吐息がかかるように甘く囁くと、優衣の肩がびくりと跳ね上がった。
素直な反応を見るのは、気分が良い。
優衣が不服そうな、しかし赤くなった顔で勢い良く振り返った。

「そ、そんなのおかしいよ!」
「でしたら――Trick or treat」

もう一度、耳元で囁いてやると、再び肩が揺れた。

「あ、お、お菓子そこだから! ごめん、ちょっと離してっ」
「それはできません」
「ええっ!?」

優衣は慌てて、目の前のテーブルの上にあるオレンジ色の紙袋に手を伸ばすが、生憎、届かない。
そして、優衣を閉じ込めるこの腕を緩めてやる気も、トキヤにはさらさらない。
困り果てる優衣に追い打ちをかけるように、少し寂しそうに演じてより強く優衣を抱き締める。

「片時も君を離したくありませんから」
「でも……お菓子、せっかく作ってきたのに……」
「君が、作ってきたのですか?」

優衣の手作りということに、つい心が惹かれてしまった。

「え? うん、そうだよ」
「それなら、一緒に食べましょうか。せっかくですしね」
「あ……うん!」

優しく微笑みかけながら腕を緩めてやると、優衣は嬉しそうに笑って前へ身を乗り出した。
何だかんだ言って、優衣の笑っている顔が見ていて一番安心する。
しかしトキヤは、このまま終わらせてしまうのは物足りないとも感じていた。

「ああ、でも」
「わあっ!」

離れかけた優衣の体を引き戻し、再び腕の中に閉じ込める。
驚き、たじろぐ優衣の腰を撫でながら。

「どのみちお菓子を貰っても、もう悪戯を止めることはできそうにありません」
「えっ」
「先に悪戯を済ませるか、後でじっくり悪戯されるか――優衣の好きな方を選んでください」

凍り付く優衣の顔に、唇が触れそうなくらい顔を近付けて、追い込んだ。
熱を帯びて、また熟れていく頬。
優衣は少しの間、視線を逸らして泳がせた後、観念したようにトキヤの目を見つめた。

「……後で、お願いします」

小さく呟かれた答えに、トキヤは満足して、軽やかに口づけを一つ与えた。


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