10/09 ( 23:22 )
馬鹿正直者の末路(コラボ)

ゆあさ先生宅の砂月夢主さん透くんと、優衣が出会うお話。
どんな風に出会うのかなーって考えるのにすごく時間がかかったのですが、書いたら書いたで長すぎたのでいったん切りました。




夕焼け空が広がる、午後六時過ぎのこと。

「優衣、これを被っていなさい」

シャイニング事務所が構える寮の前で、つい先程まで彼が変装のために被っていた帽子を渡された。
その行動の意図を汲み取れずにきょとんとしていると、帽子を持つ手が視界から消え、次の瞬間には少し強引に優衣の頭に被せられた。

「わっ」

びっくりして思わず肩が跳ねる。
目深に被せられたおかげで視界が狭まり、彼が顔が見えなくなってしまったので、つばを掴んで少し浅めに被り直した。
そしてようやく見えた彼の顔に困惑気味な視線を送ると、彼はやや厳しい表情を浮かべたまま答えてくれた。

「君は部外者ですから、事務所の人間に顔を覚えられてしまうと不都合なんですよ」
「なるほど」

優衣が納得したのを確認して、トキヤは先を行く。
その後に付いて行くのは初めてではないし、以前までは特に誰かと擦れ違ったりすることもなく、無事に彼の部屋に辿り着いていた。
だから、少しだけ気が緩んでいたかもしれないということは、確かに否めなかった。
ただ前回、彼の同期で友人だという神宮寺レンに見つかってしまったため、彼も警戒心を強めたのだと思う。
それが空気から伝わってきて、気が引き締まるどころか、浮足立ってしまう。
彼の部屋に辿り着くまでは、言葉も交わさない。

「あ、トキヤ。お疲れ」
「透。お疲れ様です」
「仕事?」

顔を伏せ気味にしていたので、彼に声がかかるまで、その存在に気付かなかった。
はっ、と反射的に顔を上げると、見慣れた真っすぐな背中越しに、ショートカットの、トキヤよりも背が低めの男の子が彼に話しかけているのを見た。
男にしては、少し高めの声だったかもしれない。

「ええ、そんなところです。透は?」
「ちょっと事務所の方に用事があってね。今、戻ってきたところだよ」

そんな他愛ない挨拶程度の会話をどぎまぎしながら聞いていると、透と呼ばれる男の子とばっちり目が合ってしまった。
ぎゅっ、と心臓が縮み上がる感覚と共に、咄嗟に下を向く。
帽子があってよかったと、今、この瞬間になって心から安心した。
が、これが逆に不審がられてしまう行為であったことに気付くのに、そう時間はかからなかった。

「あの、後ろにいるのは?」

明らかに、怪訝な声色。
内心、焦りを感じていると、目の前の彼は平然と返してみせた。

「今抱えている仕事の関係者の方です。少し相談事があったので、わざわざ来ていただいたんです」
「へえ」

さすが、プロ……なんて感心してしまったが、優衣にとってのハードルはますます上がった。
芸能界の仕事の関係者って、何を話せばいいのだろうか。
とりあえず、挨拶だけでもした方がいいのかもしれないと思い立って、一歩、震える足で前に出た。

「ど、どうも初めまして! いいい一ノ瀬さんにはお世話になっております!」
「え、は、はい」

喉がからからで声が掠れた上に、情けなくもひっくり返ってしまった。
向こうも完全に戸惑っている様子で、トキヤからの視線が痛い。
これはどう考えても、余計なことをするなという意思を含んだ視線である。
ますます混乱し、遂に。

「あ、す、すみません! ちょっと電話が〜!」

鳴ってもいない携帯電話を鞄の中から探す仕草をしながら、慌てて踵を返す。
もう、この場にいられるほど、プレッシャーに耐えられるほど、優衣の心は強くない。
早足で去ろうとしたところで、ちょうどそこを通りがかった誰かにぶつかってしまった。

「うわっ!」
「おっと」

反動でよろけそうになったところを、すかさず受け止められた。

「大丈夫かい?」

腕を引かれ、腰を逞しい腕で支えられながら、その声を耳にした瞬間、思考が凍結した。
先日、聞いた声と同じ、色めいた艶のある声。
答えなければいけないのに、礼を言わなければいけないのに、言葉が出てこない。
焦りと緊張感に苛まれ、冷や汗がじわりと肌に浮かぶのを感じた。

「キミ、ひょっとして……」

訝しむような声に嫌な予感がしたと思えば、視界が完全に開けた。
顔を隠していた帽子を取り上げ、彼は思った通りだと言わんばかりに綺麗な青い目を細め。

「やっぱり、子猫ちゃんだ」

絶望する優衣、頭を抱えるトキヤ、そして。

「え、何、どういうこと?」

状況が読み込めず、困惑する透。
もう、言い逃れはできなかった。



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