12/15 ( 22:47 )
心境の変化

寿嶺二の運転する車に何故か乗っているという謎シチュエーションですが、書いてるのは楽しかったです。
連載よりちょっと未来の話。



窓を流れていく夜の街並みをぼんやりと眺めていると、視界の端で、こくり、こくりと揺れる頭に気付く。
視線をそちらへ向けると、ほとんど閉じかけている彼女の瞼から、瞳が空ろに覗いていた。
車内に充満する暖かい空気と、小さく心地好い揺れに、眠気を誘われているのか。
街を歩き回ったことによる疲労感も、助長しているのかもしれない。
それでも意地らしくも一生懸命に目を開けていようとするその姿に、胸が優しさに撫でられる。

「優衣」

柔らかく名を呼ぶと、彼女の肩が小さく跳ねた。
慌てて手の甲で目を擦り、彼女は聞いてもいないのに言い張る。

「ちゃ、ちゃんと起きてるよ」

思わず、笑みが零れた。
すぐに顔をほんのり赤らめた彼女に怒られてしまったが、ただただ可愛らしいという感想を抱くだけであった。

「着くまでまだ少しかかりますから、眠っていても構いませんよ」
「えっ」
「着いたらちゃんと起こしてあげますから、ね」

拍子抜けする彼女の表情が、何だか可愛らしくも可笑しく思えて、また小さく笑ってしまう。
何か言いたげなむすっとした眼差しに睨まれたので、それが言葉になる前に、そっと頭を撫でてやる。
すると、優衣は一瞬だけ気が抜けたように目を閉じたが、すぐさま悔しげにこちらを見つめ、小さく呟いた。

「……トキヤくんはやっぱりズルい」

勝ち誇ったような気分で笑みを深めると、彼女の柔らかい髪の感触を楽しんでいた手に少しの力を入れ、頭を自分の肩に導いてやった。
彼女は慌てた様子だったが、次第に微睡みの中に意識を揺蕩わせ、空ろな目を細める。

「おやすみ、優衣」

愛情を込めて耳に吹き込むと、擽ったそうに目を強く閉じた後、そのまま力なくこちらに身を委ねた。
そのあどけない寝顔をしばし眺め、すっかり口元を緩めていると、バックミラー越しにいやに笑みを浮かべ、水を指す者が前方にひとり。
気付けば窓に映っていた景色は一点に留まっていて、前に停まる車の向こうに見える信号は、赤い光を丸く放っていた。

「トッキーってホント、ゆいゆいの前だと別人になるよね」
「……気のせいでしょう」
「ゆいゆいの前でもそんな態度でいられる?」
「そんなこと、無理に決まっているでしょう」
「うわあ、即答」

まったく、何を言い出すのか。
苦笑いを浮かべる仮にも先輩である存在に、溜息と共に冷ややかな視線を送った。
それにしても、他人に彼女との一時を見られるのは居心地が悪いものである。
彼の言い分は決して間違いではなく、優衣を前にすると、自分が自分でいられなくなる。
新しい自分――彼女の前だけで見せる、特別な自分に出会えるのだ。
それを誰かに見られるのは、慣れたものではない。
しかし。

「ゆいゆいといる時のトッキー、イイ顔してると思うよ」
「はぁ……そうですか」

心地は確かに悪いが、不覚にも、決して悪い気はしない。
にやにやと笑う彼には絶対的に言ってはやらないが、胸の内ではそう感じていた。



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