奥州に覇を唱える若き独眼竜によって一つの家が絶えたのは、その年の瀬も暮れんとする頃だった。

天宮家という古の帝にも連なる血筋の名家であったが、その血筋の誇りゆえに他家に与することを由とせず、一族郎党打ち揃って城の露と消え果てる最期を迎えたのである。

戦の事後処理に追われていた伊達家当主の元に、一人の姫が送り届けられてきたのはそれから間もなくのこと。

「天宮の娘が尼寺に?」

板張りの廊下を足早に進みながら、鋭利さの際立つ端正な顔立ちに苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる青年こそ、伊達家当主にして奥州筆頭、独眼竜の異名を持つ伊達政宗その人である。

「はい。末期の親心というものでございましょうか。落城寸前に侍女一人を連れて落ち延びていた由にて」

竜の右目とも称される片倉小十郎は、主の問いに是と頷いた。

「当主夫妻が待ち望んでようやく生まれた姫君であったとか。娘可愛さにその命を惜しんだとて不思議はありますまい」

「天宮の娘と言えば、美貌で有名だったな」

「えぇ、東国一の美姫と評判も高く、近隣諸国から婚姻の申し入れもひっきりなしであったと」

「…ま、美人だろうが名家の出だろうが、そんなことはどうでもいい話だ」

「政宗様…」

自身の生母を思い出し、その面を嫌悪に歪める様を見て小十郎は眉を顰めた。

最上家という名門の生まれを誇る、美しくも驕慢なあの女性――前当主伊達輝宗が正室、義姫。

政宗が未だ妻妾の一人も迎えず、女嫌いの片鱗さえ窺わせる大きな要因の一つでもある。

(じきに世継ぎのことも考えなきゃならねぇってのに…)

親心にも似た内心を年若い主に知れたら激昂されるに違いないと、小十郎は内心ひそかに溜め息を吐いた。

やがて二人が足を止めたのは、簡素な造りの部屋の前。

一息に襖を開け放てば、畳敷きの間には叩頭する女の姿があった。


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