春の陽射しを目一杯うけた洗濯物が、はたはたと風に揺れている。

絶好の洗濯日和。

これ以上ないほど青く晴れ渡った空を見上げながら清々しい気持ちで最後のシーツを干し終えたとき、縁側の板の目がキシリと鳴いた。

「瑠璃」

耳に心地好い、穏やかな低い声。

誘われるように振り返れば、そこには一月ほど前から京へ出張に出ていた土方さんが、煙草を片手に佇んでいた。

声を聞くのも、本当に久しぶりのことだ。

思わず駆け寄りながら、抑え切れずに笑みが零れる。

「お帰りなさいませ、土方さん」

「あぁ、ただいま」

ふ、と笑った土方さんは、躊躇う様子もなくまだ大分長さの残る煙草を灰皿に押し付けた。

どうしたんだろうと思う間もなく、力強い腕に引き寄せられる。

「ただいま、瑠璃」

ぎゅう、と隙間がなくなるほど抱きしめられて。

肩口に預けられた重みがいっそ愛おしくなるほど。

寂しくて、逢いたくてたまらなかったのは自分だけではないのだと、微かに震える吐息がそのことを雄弁に伝えてくれるから。

「お帰りなさい…」

広い背中に手を回して、甘えるように彼の胸へ頬を擦り寄せた。

「…お前な…」

はぁ、と溜め息が一つ降ってくる。

何か不味いことをしただろうかと思って顔を上げた瞬間、少し強引に唇が重ねられた。

「んぅ…っ…」

頭の芯が、与えられる熱に浮かされてゆるく痺れる。

立っていられなくなる寸前、いつもより熱い舌が口内をたっぷりと蹂躙して離れていった。

「お前はアレだろ、俺の理性を過大評価してるだろ」

「…?」

「…あんま煽るなっつってんだ」

有無を言わさずもう一度、食むように口付けられる。

「夜は覚悟しとけよ、瑠璃」

濡れた唇を舐めるその仕草が壮絶に艶かしい。

踵を返して遠ざかっていく土方さんの後姿を見送りながら、明日の朝、果たして無事に起き上がれるのだろうかと、埒もないことを考えていた。



鮮やかに眩暈


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