「卒業しないでください瑠璃先輩ー!」

「おやおや無茶を言いなさる」

今にも涙が零れ落ちそうなほど瞳を潤ませて、赤也が抱きついてくる。

しかし何分わたしより図体が大きいので、受け止めた弾みでちょっとよろけた。

そんなことに構う様子もなく、人様のお腹にぐりぐりと頭を押し付けてはひたすら卒業しないでくださいと連呼する赤也。

懐っこい大型犬みたいだなーと思って笑ったら、眦を吊り上げて「何笑ってるんスか!」と怒られた。

「じゃあ赤也は、わたしにまさかの中学留年をしろっていうわけ?」

「瑠璃先輩なら大丈夫!」

「いや大丈夫じゃないから」

「…先輩は俺のこと嫌いなんスね…」

「とんだ極論だよ!」

もう何この駄々っ子。

「大体、卒業なんて言うけど、高等部だって同じ敷地にあるんだよ?テニス部の皆だって全員内部進学するし」

「…でも、今までみたいに学校の中で擦れ違ったりとか、そんなのもなくなるじゃないスか。昼飯だって一緒に食えねーし」

「まぁそれはそうかもだけど」

すっかり拗ねた赤也は膝を抱えて小さくなった。

さて、どうしたものか。

とりあえずあやすように柔らかい黒髪をぽんぽん撫でてあげてから、ぎゅうっと丸まった背中を抱きしめてみる。

「ねぇ赤也」

「…何」

「寂しくなったらすぐ呼んでよ。そしたら飛んでいって抱きしめてあげる」

今みたいにね。

「…瑠璃先輩…!」

「はいはい、男の子なんだから泣かないの」

ついにはえぐえぐ泣き始めた可愛い恋人を宥めながら、窓の外で少しずつ蕾をつけ始めた桜を見上げる。

来年の春、今度は桜が満開に咲き誇る頃、きっと同じように満開の笑顔が見られることを思い浮かべて。


春を待つ人