手にした筆が、ボキリと嫌な音を立てて真っ二つに折れた。 ついでに、二日続きの徹夜で極限状態だった心の方もポキリと折れた。 「…もうやってられるか…」 目の前には山と積まれた書類の数々。 ちなみにその五割近くが一番隊隊長の引き起こした不祥事に関する始末書である。 一向に減る様子のない書類を見るのも嫌になって堪らず溜め息を吐くと、すぐ隣りで洗濯物を畳んでいた瑠璃が心配そうな表情を浮かべた。 「土方さん、少し休まれてはいかがですか?」 「…あぁ…分かっちゃいるんだが…」 「体を壊したら元も子もないですよ」 石鹸の香りを纏った指が、労わるように頬へ触れてくる。 「私にお手伝いできることがあったら、何でも言ってくださいね」 優しい言葉が、疲れ果てた心身にじんわりと沁みた。 「…お前はほんとに可愛いな」 「急に何を言い出すんですか、もう」 離れていく指先を捕まえれば、くすぐったそうに笑う声が耳に心地いい。 「瑠璃」 抱きしめれば最後、本能に忠実な体が彼女を離すことを完全に拒否した。 「土方さん、あの、少し仮眠を取られた方が…」 「気にすんな、今更だ」 「でも、」 尚も言葉を紡ごうとする唇を容易く塞いで、華奢な背中を畳へと押し付ける。 「何でも手伝ってくれんだろ?」 「…はい」 綺麗な笑顔とたゆたう黒髪の温度が、掌の中でおだやかに溶けた。 穏やかなるインソムニア |