それがあまりにも珍しい光景だったから、思わず仕事の手を止めて見入ってしまった。

あたたかい陽射しが陰り始めた縁側にごろりと寝転がるその人は。

「土方さん…」

近づいても目を覚ます気配はまるでない。

よほど疲れているのだろうかと思いながらも、鬼の副長と恐れられている日常からは想像ができないほど幼くあどけない寝顔に、堪えきれず笑みが零れた。

(そういえば、土方さんの寝顔って見たことないなぁ…)

夜を共にしたことは数え切れないほどあっても、一晩中散々に可愛がられた体が言うことを聞くはずもなく、毎朝彼より早く起きられた試しは一度もないのだ。

こんな機会は滅多にないので、とっくりとその寝顔を監察してみる。

(あ、睫毛長い…てゆうか、何か…寝てても色気が駄々漏れなんですけど…)

…何となく、いけないものを見ているような気がして直視できなくなった。

「風邪ひきますよ、土方さん」

起こしてしまうのも勿体ないような気はするけれど、陽が落ちればあっという間に気温は下がって、風も肌を刺すほどに冷たくなる。

心を鬼にして静かに体をゆすった。

「んー…」

すると、むにゃむにゃと訳の分からない言葉を呟きながらころりと寝返りをうたれてしまう。

弾みで捲れたシャツから覗く素肌にドキドキしながら、溜め息を吐いた。

「仕方ないなぁ…」

干し終えたばかりの布団を掛けてあげてから、さて次の仕事に取り掛かろうかと腰を浮かした時、小さな声で名前を呼ばれる。

「…土方さん?」

覗き込んだ先、眠気を孕んだ瞳がわたしを見上げていた。

ふらふらとやや頼りない指先が着物の袖を掴む。

「…いいから…」

「え?」

「ここにいろ…」

再び眠りに落ちる瞬間、彼が小さく蕩けるような笑みを浮かべるものだから、

(か、かわいい…!)


思わぬ不意打ちで赤くなった頬を隠すため、とりあえず抱えた洗濯物を力一杯抱きしめた。



無防備な幸福論





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