誕生日を祝うって、簡単そうで実は物凄く難しい。

特に長いこと一緒にいる間柄だと、祝う方も祝われる方もマンネリ化しちゃって、サプライズなんて成立しないし。

おめでとうの一言を口にするのにも、照れとか気恥ずかしさが勝ってうっかりすると何コレ羞恥プレイ?みたいな空気になるから、本当にどうしたらいいのか分からない。

なんて、毎年同じことを考えながらもせっせとケーキを焼いてしまうあたり、自分もまだまだ若いなぁ、とか思ってしまう。

一応プレゼントについても色んな人の意見を聞いてみたものの、どれもこれも、何と言うかたっぷりと私情の入った提案だったので、丁重に却下させて頂いた。

「…よし、いい味」

綺麗な金色に焼きあがったスポンジの端っこを摘まんで味見をすると、糖尿一歩手前の彼には丁度良いくらいの甘さに出来上がっていた。

その上を彩る生クリームは更に甘く。

季節はずれの苺だって、少々値が張るのには目を瞑って真っ赤に熟したとっておきのものを。

「うーん、我ながら完璧じゃない?」

「へェ、どれどれ」

「ってコラ」

最後の一粒を飾りつけようとした時、横からにゅうっと出てきた手がデコレーションされた生クリームを掬い取って行った。

「ん、んまい」

「今日は特別大目にみてあげる」

毎年毎年飽きもせずに味見という名のつまみ食いを繰り返す本日の主役は、大して反省した様子もなく飄々とした態度を崩さない。

「実はね、あの、もう一個プレゼントがあるんだけど」

「え、マジで?」

「うん、えっとね」

恥ずかしい。

ものすごく恥ずかしい。

だけれども、これで銀ちゃんが喜んでくれるならばと考え直し、一生分の勇気を振り絞って。

「…プレゼントはわたし、とか、どうですか」

一瞬の間。

きょとんと目を見張った銀ちゃんは、何度か瞬きをした後、ゆるりと唇の端を吊り上げて笑った。

その笑みが獲物を捕食する肉食動物のように見えて、思わず一歩後ずさる。

「…何それ、何処で覚えてきたの」

つい、と伸びてきた指先が顎のラインをくすぐるように撫でる。

「『そう言やァ旦那もイチコロですぜィ』って、総悟くんが」

「たまには言いこと言うじゃねェか総一郎くん」

身に着けていた筈のエプロンがいつの間にやら足元に投げ捨てられている。

「…あのね、銀ちゃん。とってもベタだけど、誕生日おめでとう」

赤くなった頬を隠すようにぎゅうっと抱きつくと、帯を解きにかかっていた手を止めた銀ちゃんは、にんまりと満足気に笑った。

「男ってのは、幾つになってもベタが好きな生き物なんだよ」



hapyy birthday dear my lover!



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