からりと晴れた梅雨空から、鬱陶しいほど燦々と輝く太陽が顔を覗かせる。

照りつける陽射しはジリジリと肌を焼く。

「あ゛ー…暑ィ…」

涼を求めて板張りの床に寝転がると、一瞬の冷たさが肌に染みて心地良い。

けれどすぐに自分の体温と同化して生温さだけが残る。

いっそ近くの川に泳ぎに行こうかとまで思うものの、執務を放り出したと知ったときの怒り狂う小十郎が頭を過ぎったので止めにした。

「…暑ィ…」

何だか余計に暑さが増した気がする。

とうとう手にした扇子をぱたりと投げ出したとき、ふと、廊下に人の気配を感じた。

清かな衣擦れの音がシュルリと涼しげな音を立てる。

「まぁまぁ、政宗さま、仮にも国主たる御方が何という姿を」

現れた妻は、あまりにしどけない格好を見てほんの少し眉宇をひそめてから、そっと微笑んだ。

「このようなところを見られたらまた小十郎殿に叱られますよ」

「No problem.アイツは城下に行ってるから暫くは帰らねェ。それより瑠璃、」

こいこいと手招くと瑠璃は素直に従って傍らへ腰を下ろす。

世話焼きな彼女の指先は、乱れに乱れた衣と髪を丁寧に直してくれた。

「俺に何か用か?」

「はい。出入りの商人から政宗さまに似合いそうな反物を買いましたので、御着物を仕立てようかと。お暇でしたら採寸させて頂きたいのです」

「…またお前は…」

吐き出した溜め息に、瑠璃はきょとんとした表情で首を傾げた。

「俺のものばかりじゃなく、たまには自分の好きなものを買えと言っただろう」

無用な贅沢を好まない彼女は、確かにこの上なく理想的な妻であり、尽くしてくれるその献身さも愛おしいことに変わりはない。

けれど、偶には彼女の望むものを与えてやりたいと思うのだ、男としては。

「でも…わたくしは、政宗さまのために何かをしている時間が一番幸せなのです」

ぐっときた。

何だその健気さは。

たまらずにやけそうになる頬になんとか力を入れながら、それでももう一度尋ねてみる。

「…瑠璃、本当に欲しいものは何もないのか?」

「急にそう仰られても…」

睫毛を伏せた瑠璃は、少しの間困った顔で逡巡する。

そうして、ややあってから静かに微笑んだ。

「わたくしが欲しいのは、政宗さまとこうして、いつまでも穏やかに過ごすことのできる平和な世にございます」

「瑠璃…」

「いつかくださると約束してくださったでしょう?」

…だから、何なんだその可愛さは。

完全に緩んだ口許を片手で覆い隠すと、追い討ちをかけるように瑠璃は言った。

「それと、欲をいうならば、政宗さまによく似た御子が欲しゅうございます」

あぁもう、今度こそ本当に。

「お手上げだ、Honey」



ねぇハニー、優しい熱が止まらない



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