肌を撫でる風はやわらかに温くて、何となく、春が終わるのだなと思った。 深緑が街を染める頃には、もう次の季節が訪れる。 「…銀ちゃん」 返事はない。 部屋の主は健やかな寝息を立てて夢の世界に遊んでいる。 ソファの上で豪快に足を投げ出して眠る姿に、思わず笑みが零れた。 「かわいいなぁ…」 普段はふらふらと掴み所がない上に頼りなくて、でもいざというときには誰よりもかっこいい、そんな彼だけれど。 こうやって無防備に眠っている姿は本当に可愛らしくて、何だか無性に守ってあげたくなるのだ。 もしかしてこれが母性本能というやつかもしれない。 指どおりの良いふわふわした髪に、そっと指を絡ませる。 「…ん、」 どうやら起こしてしまったらしい。 夢うつつを彷徨う瞳がぼんやりとこちらを見つめて、ふと、その眼差しが優しく溶ける。 大きな掌が緩慢な動作で伸びてきて、くすぐるように頬を撫でられた。 「瑠璃」 「なぁに?」 「おいで」 たくましい腕に引き寄せられたかと思えば、逃がさないとでも言うようにぎゅうっと体を抱き込まれた。 広い胸に押し当てた耳から伝わるトクトクと心地良い音が、とろりと眠気を誘う。 「…おやすみ、銀ちゃん」 この世界のどこよりも安心できる場所に守られて、ゆっくり目を閉じた。 黄昏にみる夢 |