別段心を動かされた風もなく、かつての仲間を温度のない瞳で見送った彼は薄く笑っていた。

その胸中に去来するのが怒りなのか哀しみなのか、表情から慮ることはできない。

そうしてまた己自身、この決別に大した感慨を抱いていないことに気付く。

結局のところ大切なのは高杉晋助という存在であって、それ以外に心を砕くほど重要な問題などありはしないのだ。

彼がこの世界を腐っていると言い、それを壊すというのなら、自分にとってはその言葉だけが全てでしかない。

明けの空にたゆたう煙管の紫煙を一瞥し、華美な着流しの袖をそっと引く。

「…晋助」

大きな掌をとり頬を寄せれば、じわりじわりと沁みる温もりだけが、愛しい。

「置いていかないで」

ふと零れた言葉に答えはなくて、ただ肌を滑る指の力が強く応えた。

「どこにだって、着いて行くから…」

燃え盛る紅蓮は何もかも飲み込んで、やがて全てを灰塵に帰すだろう。

だけどそれでも、この手に残されたものがたった一つあるのならば。



修羅

(巣食う鬼が、嗤う)




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