「俺と来い」 差し出す指先に緋を纏わりつかせ、血に飢えた獣は嫣然と笑った。 「やめて、」 「瑠璃」 「やめて!」 甘い毒を含んだ声が耳朶を撫でて、ぞくり、背中が震える。 這い上がるのが歓喜なのか恐怖なのかなんて、わたしには、もう分からない。 「瑠璃」 「…っ…」 感覚の失せた掌から刀の柄が滑り落ち、がしゃんと鈍い音を立てた。 「もう一度言う」 隻眼を微かに細めた男、高杉晋助は、ひどく艶やかに微笑みながらその手を私に差し出す。 抗えない。 拒む術など初めからありはしないのだと、瞳が言う。 「俺と来い、瑠璃」 「わたし、に…全部、捨てろって、いうの?」 「当たり前だ」 「不公平よ」 「…それなら」 最後の抵抗とばかりに笑みを浮かべてみせれば、彼はそれに頓着することなく唇を歪め、そして、言った。 「俺もお前以外のものを全部捨ててやるよ」 ロスト、マイワールド ×
|