薄桃色の封筒に赤いハートのシールが目にも鮮やかなそれは、まるでラブレターのお手本のような顔をしてそこに横たわっていた。 (うーん、なんというか…) 下駄箱の中というこれまた王道極まりないシチュエーションにいっそ拍手を贈りたくなる。 手紙は確かに自分宛てだったが、何故か他人事のような気持ちでそれを手に取った。 ひっくり返して差出人の名前をなぞれば、全く知らない人物のもので、いよいよ複雑な心境になる。 ここにある名前がもし、もしも、彼女のものだったならば、そんなことを考えてしまう自分が切ない。 「…はぁ…」 それなりに重い溜め息を吐いて、さてこれはどうしたものかと思案し始めたとき、廊下の向こうから軽やかなソプラノが響いた。 「赤也くん!」 「せ、先輩!」 可愛らしい笑顔が今は胸に痛い。 「あのね、土曜日の練習試合の時間が変更に……あれ、なにそれ?」 「え、あ、これ、は…」 別にやましいものを持っている訳ではないのにとてつもなく悪いことをした気分になる。 現場と物証から状況を理解したらしい先輩は、何故か途端に表情を曇らせた。 「ど、どうしたんスか先輩」 「…やっぱり人気あるんだねぇ、赤也くん」 「や、俺は別に、」 「うかうかしてたら誰かに取られちゃいそうだなぁ」 「……え?」 今、この人は、何て? 「あぁそうそう、土曜日だけど、九時集合だから遅刻しないようにね」 「え、ちょ、待っ、…先輩!」 自分の都合の良い解釈だったらどうしようなんていう愚かな考えは、微笑む彼女の赤い頬によって見事かき消された。 この手紙の差出人には申し訳ないけれど、丁重にお断りしなければならないだろう。 ラブレター |