「「「せ、先生…」」」」


「おやおや、ずぶ濡れですよ晋助」


こちらへおいで、と松陽は笑って三人を手招いた。


利発そうな色を湛えた六つの瞳が生真面目に見上げてくる。


しんなり濡れた高杉の黒髪を丁寧に拭ってやりながら、彼は溜め息混じりに苦笑を零した。


「三人とも反省したようなので、掃除はもう充分です。八つ半になったら皆でお菓子でも食べましょうか」


途端に子供らしく輝く表情は実に微笑ましい。


小さな頭をそれぞれに撫でてやりながらふと、浮かんだ警句を唇に乗せた。


「至誠にして動かざるものは、未だこれ有らざるなり」


「……?」


「この上なく純粋な誠の心で動かぬものはこの世にない、という意味です。君達にはまだ少し難しいだろうけれど…」


いつか、そう遠くはない未来に想いを馳せて、思わず笑みが零れた。


「…いいえ、何でもありません。君達は君達のまま、自分の信じる道を為せばいい」


師の言葉を受け、意味は分からないなりに真摯に頷いた少年たちの頭をもう一度撫でて松陽は立ち上がる。


「さぁ、お茶の用意をするので手伝ってくださいね」


無邪気に笑う幼い声が、爽やかな初夏の風に紛れて、きえた。



遠い、遠い、昔に





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