さて今晩の献立はどうしよう。

手の中の湯飲みをぐるりと回す。

揃っている食材を考えるともなくぼんやり思い浮かべていたとき、とん、とやわらかな感触が背中に触れた。


「光忠」


円やかに甘い声で名前を呼ばれる。

白く細い腕がお腹の辺りにぎゅう、と巻き付いた。

思わず口許が緩んだけれど、相手には見られなかったので、格好悪い姿を晒さずに済んだのは幸いだ。


「なぁに、主?今日は随分と甘えただね」

「………充電」

「え?」


背中の彼女が楽しそうに笑う気配がする。


「光忠がちっともかまってくれなくて寂しいから、光忠を充電しにきたの」

「………っ……!!」


危うく湯飲みを取り落とす所だった。

この恐ろしいほどの可愛らしさは一体なんなのだろう。


「主、ちょっと待ってて」


半分中身が残っていた緑茶を一息に飲み干し、空になった器を手離した。

そのまま半身を返して大人しく背中にくっついたままの主を抱えあげ、自分の膝の上に座らせる。

されるがままの彼女は何も言わず、ただ嬉しそうに微笑んで胸の辺りに頬をすり寄せてきた。

抱き締めた小さな身体はあたたかな陽だまりの香りがする。


「………僕だって寂しかったよ」


唯一無二の主は、僕一人だけのものではない。

彼女の想いが自分にあると分かっていても、時折遣る瀬ない感情に苛まれることがある。

相手に知られないようにと努力はしているつもりだけれど、聡い彼女のこと、恐らくとうに気が付いているに違いなかった。


「……ねぇ光忠、こっちを向いて」


甘い声に求められては逆らえない。

視線を下げた瞬間に、深々とした夜空色の瞳が優しい色を浮かべているのが見えた。


「やっと目が合った」


笑みを象る唇がそっと額に口付けをくれる。

そこではじめて、彼女が僕に甘えに来たのではなく、僕を甘やかす為に来たのだということに気が付いた。


「…………何だか格好つかないね」

「私の光忠はいつだって格好好いよ」

「僕の主は男前だなぁ」

「光忠には負けるけど」


鮮やかに笑った主の小さな両手が頬を包む。

目を閉じてその温もりを受け入れながら、たまには自分から甘えてみるのも悪くないかもしれないと、密やかに思った。



Hello,my sweet



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