繋がった掌の温度と、そっと絡まる指先の優しさと。

いつもと同じはずのそれをどこか面映ゆく感じるのは、ここが学校という日常の世界を離れた場所だからなのかも知れない。

付き合い始めたばかりの頃の気持ちを思い出して、何だかくすぐったいような幸せを覚える。

10月も終わりに近付いて肌を撫でる風は刺すような冷たさを帯びてきたけれど、寒さは少しも気にならなかった。

他愛もない話をしながら鮮やかな紅葉に色付いたホグズミードの小道をのんびりと歩く。

「次はどこに行きたいんだ」

「ハニーデュークス。もうすぐハロウィンだし、お菓子を買っておかなくちゃ」

「……俺は中には入らねぇからな」

甘い物が苦手なリヴァイが心底嫌そうに眉をひそめるのがおかしくて、思わず笑みが零れた。

確かにあのお店はいつだってヌガーやらキャンディやらチョコレートやらの甘ったるい香りでいっぱいだ。

「何を笑ってやがる」

「いいえーなんでも。だけど本当にお菓子は買わなくてもいいの?」

「あ?」

「だって『trick or treat』だよ。それとも、もしかしてリヴァイは悪戯希望?」

ちらりと横目でわたしを見たリヴァイは鼻で笑った。

「俺に菓子をせびる奴がいるとでも?」

「……えっと……あ、ほらハンジとか?エルヴィンも面白がって貰いにくるかもね」

「そいつらは例外だ。除外しておけ」

素直にお菓子を渡すリヴァイの姿を想像するのも微妙に怖かったので、とりあえずそれ以上考えるのは止めにした。

その代わり、今日は一日ずっと繋がったままの指先をきゅう、と握りしめてみる。

何も言わずに握り返してくれる力はわたしよりも強くて、だけどやっぱりどこまでも優しいのが嬉しかった。

「ねぇ、ハロウィンのダンスパーティでする仮装は決めた?」

「…あぁ、そういやそんなふざけたイベントもあったな」

「またそんなこと言って。誘ってくれたのはリヴァイでしょ」

「そうだったか」

「……リヴァイが行きたくないなら他の人を誘うからいいもん」

もちろんリヴァイ以外の誰かと行くつもりなんて更々無かったけれど、わざとらしくそっぽを向いて拗ねてみたら。

「ふざけたこと抜かしてんじゃねぇぞ」

「…ご、ごめんなひゃい…」

むにむにと頬を摘ままれた。

…ちょっと痛い。

「なぁルリ」

にやりと意地の悪い笑みを浮かべたリヴァイの唇が、掠めるように耳朶に触れる。

「…俺がお前の隣を簡単に譲ってやると思うなよ」

「…っ…」

低い囁きに眩暈がした。

わたしがこの声に弱いことを知っていてやるのだから、本当に質の悪い確信犯である。

「…リヴァイのそういうところがずるいと思う…」

「赤い顔して言われても説得力に欠けるな」

頬を摘まんでいた指先はゆるりと滑って、俯いたわたしの顔の輪郭を辿るように撫でた。

額に優しいキスが一つ落ちる。

「ほら、いい子だから拗ねるのは止めてさっさと買うもん買って来い」

「………一緒に来て欲しいんだけど、ダメ?」

離れていこうとした彼の手が何だか寂しくて、思わず掴んで引き留めたら。

「…俺はお前の方がよっぽどずるいと思うがな」

呆れたように笑ったリヴァイが、離れかけた指先を、もう一度強く握り直してくれた。


ひらり、色付く



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