「うふふ」

携帯の画面と窓の外とを交互に見つめてはそわそわと落ち着きのないルリ。

そんな彼女の様子をしばらくの間黙って見守っていたペトラは、おもむろに楽しくて仕方ないというような笑みを浮かべた。

心ここに在らずだったルリはその笑い声で我に返ると、ギクリと肩を揺らしてペトラを振り仰ぐ。

「…ペ、ペトラ…あの…」

「あら、いいのよ、そのまま続けて?」

頬杖をついてわざとらしくじっくり観察する体勢を取ってみせると、落ち着かなげに視線を彷徨わせたルリの顔がじわじわと赤く染まっていく。

(こういうところが可愛いのよね)

ペトラは益々笑みを深くした。

恥ずかしそうに俯くルリの髪をそっと撫でたとき、ふと自分の行動がかの上官のそれに似ていたことに気が付いて、何となく複雑な気持ちになる。

「…まぁでも、二週間たっぷり一人占めさせて貰ったしね」

「えっと…何の話?」

「あぁ、こっちの話だから気にしないで。それより」

ずい、とテーブルの上に身を乗り出して、不思議そうにぱちぱちと瞬くルリに向かってにっこり笑いかける。

「もうすぐ帰ってくるんでしょ、リヴァイ教官。良かったじゃない」

「なっ、なん、なんで知って…!?」

「……それ本気で言ってる?あなたの行動見てたら丸分かりよ。さっきから何回携帯と窓見比べてると思ってるの」

「……!」

どうやら全くの無意識による行動だったらしい。

真っ赤になったルリはうるうると瞳を潤ませ、それでも蕩けるように微笑みながら頷いた。

(……あぁもうほんっとに可愛いわこの子)

これを天然でやられるのだから堪ったもんじゃないだろうと、ペトラはちょっとだけ上官に同情した。

「いいことルリ、二週間も寂しい思いをさせられたんだから、目一杯甘やかして貰いなさい」

「…仕方ないよ、仕事だったんだから」

「それはそれ、これはこれよ」

消灯前の僅かな時間、彼女が毎日のように電話が鳴るのを待っていたことをペトラは知っている。

着信を知らせる音が響くと見ているだけでこちらが幸せになるような笑みを浮かべて。

だけどほんの数分の会話が終わると、寂しそうに画面の消えた携帯を見つめていたことも。

リヴァイの方も同じような状態だっただろうということは簡単に想像がつくが、生憎ペトラはどこまで行ってもルリの味方だった。

「……!」

そのとき、ルリが握り締めていた携帯が微かな振動を立て、メールを受信する。

慌ててフリップを開き画面を確認すると、そこには簡潔にただ一言。

『あと10分で着く』

差出人は言わずもがなだ。

「いってらっしゃい、ルリ」

「うん…!」

嬉しそうに笑うルリの背中をトンと叩いて送り出すと、やれやれと肩を竦めて手近にあった雑誌を手に取る。

「…ま、ごちそうさまってとこね」

小さく苦笑しながら、実はこっそり隠し撮りしたルリの写真を毎日リヴァイに送り付けていたことは、彼女には内緒にしておこうと決意した。


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