「眠い。寝る。膝を貸せ」

「どんな三段論法ですか」

人の意見など全く聞かずに悠々とわたしの膝に寝転がった兵長は、すぐさま気持ち良さそうに目を閉じた。

そうすると、抜き身の刃にも似た鋭い雰囲気は形をひそめて、何処と無く幼い、あどけない印象が覗く。

意外にやわらかな手触りをした黒髪を梳くように撫でてあげると、眉間に浮かんでいた皺も消えた。

撫でるのを止めようとすれば、もっと撫でろと言わんばかりに手を掴まれて引き戻される。

(ふふ…かわいい)

ちょっとだけ優越感。

この人がこんな風に寛いだ表情を見せてくれるのは、わたしを特別に想ってくれているからなのだと、ちゃんと知っているから。

「…でも、もうすこし素直に甘えてくれてもいいのに」

小憎らしいくらい整った鼻筋にちょい、と触れてみる。

すると案の定、片目を開けた兵長はうるせぇと呟いてわたしを見上げた。

「人の頭の上でごちゃごちゃ言ってんじゃねぇよ」

「あら、お気に召さないのならあちらの寝台にどうぞ」

たぶん舌打ちされるだろうなぁ、と思った。

ところが兵長は予想に反して何も言わず、むくりと身体を起こして立ち上がる。

ソファの背凭れに片手を突くと、ニヒルな笑みを浮かべてわたしを見下ろした。

「…そうか、そんなにベッドに行きてぇのか、ルリよ」

「………え?」

「なら望み通りにしてやろう」

次の瞬間、軽々と抱き上げられたかと思えば、ぽいっとベッドの上に放り投げられた。

体勢を立て直す暇も与えられないまま兵長の身体がのし掛かってくる。

「…っ…」

首筋をゆるく甘噛みされて、零れかけた悲鳴を必死に飲み込んだ。

逞しい胸板を押し返そうとしても当然のことながらびくともしない。

「ちょっと兵長…!」

「なんだ不満か?甘えろと言ったのはお前だぞ」

「…言いましたけど、方向性が大分違うような気が…」

「チッ、我が儘言ってんじゃねぇよ」

いやどっちがですか。

文句を言おうとしたのに、目に飛び込んできた兵長の行動のお陰で何もかもがどうでも良くなった。

片手でしゅるりとスカーフを外す仕草が壮絶に艶かしくて、頭がクラクラする。

寛げられたシャツの襟から覗く鎖骨のラインがぞっとするほど綺麗で、羨ましいやら悔しいやら。

「…それ、分かっててやってるでしょう」

「何のことだ」

意地悪な笑みを浮かべた唇が、正反対に優しく触れてくる。

あぁ本当に質が悪い。

どうせ拒めないことを知っている癖に。

そんなあなたが好きで堪らないわたしも、十分に質が悪いのだけれど。


I know,You know?

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