開け放した窓からしんしんと降るような月光が射し込んでいる。 時刻はとうに真夜中を過ぎているが、心地好い気だるさに蝕まれた身体とは裏腹に、冴えた思考の所為で中々眠りが訪れない。 軽く身動いだリヴァイは自分の腕の中で健やかな寝息を立てているルリを見下ろした。 子猫のように丸くなり、ぴったりと寄り添って眠る姿が愛らしくて思わず笑みが浮かぶ。 「…ルリ」 起こしてしまわないように小さく、唇によく馴染んだその名前を呟いた。 こうして二人で一つのベッドに眠ることが当たり前になってからどれくらい経つだろうと、らしくもないことを考えた自分に独り苦笑しながら、滑らかな額にそっと口付ける。 ずり落ちた毛布を華奢な肩にかけ直していると、伏せられていた長い睫毛がふるりと解けて、深い夜の色をした瞳が現れた。 夢現を彷徨うような陶然とした彼女の眼差しは、いつだって容易く理性を揺さぶる。 「…リヴァイ…?」 「悪い、起こしたか」 まだ寝てろ、と僅かな動揺をごまかすように髪を撫でてやれば、寝起き特有のとろりとした甘さを孕んだ表情でルリは微笑んだ。 リヴァイの手を取って、すり寄るように頬に当てる。 「あなたに呼ばれた気がしたの」 「……あぁ」 確かに一度、名前を呼んだ。 まさか本当に聞こえていたわけではないだろうが、自分の行動が筒抜けになっていたようで何となく気恥ずかしいものがある。 リヴァイは微妙に視線を泳がせたが、幸いにも彼女がそれに気付いた様子はない。 「わたし、リヴァイの声が好き」 未だ意識は夢の淵を漂っているらしく、ぱちぱちと重たげな瞬きを繰り返す瞳は今にも閉じられてしまいそうだった。 それでも、幼子のようにあどけない口調でルリは続ける。 「どこにいたって、あなたの声が聞こえたら、わたしはちゃんと帰ってくるから」 「ルリ…」 「リヴァイは寂しがりだものね」 「…誰が寂しがりだ。ガキ扱いしてんじゃねぇよ」 撫でていた髪をくしゃくしゃとかき混ぜ、いいからもう寝ろと促せば、クスクスと少女のように笑ったルリはこてんと首を傾けてリヴァイの胸に頬を預けた。 きゅう、と細い指先でシャツを握り締める。 「ねぇ、リヴァイ」 「なんだ。これ以上ごちゃごちゃ言ったら朝まで抱くぞ」 「…だいすき」 「…っ…!」 思わぬ不意討ちに固まるリヴァイを余所に、言いたいことを言い切ったルリは満足そうな笑みを浮かべた。 言葉を失ったままの彼の頬に可愛らしい音を立てて口付けると、おやすみなさいと囁いて、あっという間に眠りの世界に落ちていく。 「……やってくれるじゃねぇか」 しばし呆然としていたリヴァイは、無防備な寝顔を見下ろして苦笑する。 お返しとばかりに薄く開かれた紅い唇を啄んでから、やわらかくあたたかい身体をしっかりと腕の中に抱き込んだ。 数分前まで欠片も見当たらなかった眠気が嘘のように押し寄せてくる。 抗うことなく目を閉じた。 微睡みに沈む意識の中で、いっそのこと、深く溶けて混ざりあって、そうして一つになれたらいいと、ひそやかに願いながら。 吐息ひとつ、溶けた夜 ×
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