※「絶望パーティー今宵開幕」続編 部屋に戻るなり、そう強くはない力でドンと背中を押された。 「…っ…!」 いつものブーツと違って高く細いヒールのある靴を履いていた所為で呆気なくバランスを崩し、倒れ込むようにベッドに手を突く。 立ち上がろうとした瞬間肩を掴まれ、清潔な香りのするシーツに身体を押し付けられた。 「…胸糞悪い」 唸るように吐き捨てた兵長の指が、ドレスの肩紐をしゅるりと解いた。 元々肌の露出が多いデザインのドレスなので初めから肩や鎖骨も露な状態ではあったが、それだけでひどく心許ない気がする。 「これは誰の差し金だ?お前の趣味じゃねぇだろ」 解いた肩紐を弄ぶように指先に絡めた兵長は、ゆっくりと唇を歪めた。 嗜虐的な笑みに思わず息を飲む。 (…どうしよう…!) ここで下手な嘘を吐いたら間違いなく明日の朝が大変なことになると直感した。 でも今回の場合、本当のことを言ったとしても待ち受ける結末は同じになるような気がしてならない。 ぐるぐると悩んでいるうちに、焦れたように舌打ちした兵長の手が首筋から胸元にかけての肌を辿るように撫でた。 官能的な仕草にゾクリと背筋が粟立つ。 「どうした、早く言え。それとも無理矢理言わせて欲しいのか?」 「…エルヴィン団長に頂きました…」 精神的なプレッシャーに負けて素直に白状すると、予想を上回る勢いで兵長の眉間の皺が深くなる。 今なら一睨みで巨人の項を削ぎ落とせそうだ。 「エルヴィン…だと?」 あぁどうしよう、やっぱり言わなければ良かった。 彼の手に超硬質ブレードが握られていないことだけが唯一の救いだ。 それでも何とか弁解を試みようと口を開く。 「あの、あのですね、今日のパーティーに何を着たらいいのか悩んでいたら、偶々団長に声をかけられて…!」 「…ほう?」 「そ、それで事情を説明したら、何故かこのドレスをプレゼントして頂くことになって…こんなの似合わないって何度もお断りしたんですけど」 「……で?」 「け、結局断り切れなかったというか…でもきっと団長に他意はなくて、単に親切心、だと…」 言葉を紡げば紡ぐほど、ますます墓穴を掘っていくのが自分でも分かった。 真顔でわたしを見下ろしていた兵長の指先が、今度は頬から顎にかけてのラインをゆっくりと撫でる。 「なぁルリ、知っているか」 「な、なにを、でしょう」 「男が女に服を贈る意味を、だ」 低い囁きとともに、耳朶を甘噛みされてたまらずシーツを掴む指先に力が入る。 辛うじて堪えた声はいとも簡単に飲み込まれた。 「…っ、ん、ぁ…」 呼吸ごと奪うようなキスに、喘ぐことしかできない。 酸素を求めて開いた唇から入り込む舌の熱さに目眩がする。 「…その服を脱がせる為だ。分かったら二度と俺以外の男に貰ったものを身に付けるんじゃねぇぞ」 吐息も触れる距離で囁かれるその言葉に、ぎゅう、と瞳を伏せて何度も頷いた。 けれどどうやらそれがお気に召さなかったらしく、閉じた目蓋を軽く舐められる。 「ひ、…っ…!」 「目を閉じるな」 「…リヴァイ、兵長…」 挟み込むように両手で頬を包まれ、視線が重なる。 「俺だけを見てろ。他の男を見る余裕なんざくれてやると思うな」 言葉とは裏腹に、注がれる眼差しはどこまでもやわらかい。 「…わたしが見てるのは、いつだってリヴァイ兵長だけです…」 「…そうか」 ドクドクとうるさいこの鼓動が、彼に聞こえてしまわないだろうか。 案じながら見つめると、兵長は溶けてしまいそうなほど優しい笑みを浮かべた。 …もういっそ、わたしの心臓は止まるかもしれない。 「いい子だ、ルリ」 熱い掌が肌を這う感覚に身を委ねながら、縋り付いた広い背中へ、そっと爪を立てた。 さぁ手をとって、真夜中のワルツを ×
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