千年に一度の猛暑というのは大袈裟な気がしたけれど、ついに最高気温が41度を更新したと聞いて、あながち嘘でもないかもしれないと思った。

とにかく今年の夏が酷く暑いことだけは確かだ。

そのうち人類はクーラー無しでは生きていけなくなる日が来るかも知れない。

「でもクーラーに当たり続けていると身体を壊すよ。体温調節が出来なくなるし、極端な例で言えば低体温症の危険もある」

「うん、だけどわたしとしては今現在炎天下を歩いてる幸村くんの方が心配なの」

「俺は別になんともないよ?」

「だって…!そんなに色白で美人なんだもん、心配にもなるよ!」

にこにことわたしを見つめる幸村くんは、35度を超える気温とコンクリートからの容赦ない照り返しにも関わらず、汗一つ浮かべず涼しげに笑っている。

羨ましい。

実は気温を下げる魔法とか使えるんじゃないだろうか。

「流石に部活で慣れてるからね。それより、俺も君の方が心配だな」

するり、とわたしの頬を撫でた幸村くんが軽く眉を寄せた。

美人はどんな表情をしても絵になる。

「いつもより体温が高いし…きちんとこまめに水分を取らなきゃ駄目だよ。それから、俺達が試合をしてる時はちゃんと日陰にいること。瑠璃はすぐ無理をするから」

「うん、大丈夫、気を付けるね。ありがとう」

気遣ってくれる優しさに思わずきゅんとした。

こうしている今も、わたしに日差しが当たらないよう、然り気無く影になって歩いてくれている。

もう一度ありがとうを言うのは何だか照れくさかったので、お礼の代わりに繋いだ手をぎゅっと握りしめた。

やわらかに笑った幸村くんが優しい力で握り返してくれる。

暑いのは苦手だけど、この熱だけは大好きだ。

そうやって夏休みの予定や課題のことなんかを話しているうちに、いつも別れる曲がり道に到着する。

「…じゃあ、また後で。6時に迎えに行くよ」

幸村くんが、ちょっと名残惜しそうに手を離した。

一旦それぞれの家に帰った後、今日は花火大会に行く約束をしているのだ。

「瑠璃の浴衣、楽しみにしてるね」

「…会場は幸村くんのお家の方が近いんだから、やっぱりわたしが行った方が早いんじゃないかな?」

「何度も言ったけどそれは駄目。瑠璃の浴衣姿を一番最初に見るのは俺って決めてるから」

「ご、ご期待に添えるように頑張ります…」

ふふ、と笑った幸村くんの唇が、掠めるようにわたしの唇に触れた。

「大丈夫、君は何を着ても可愛いよ」

「…………!」

「またね」

軽やかに踵を返した幸村くんを見送るわたしの頬は、当然ごまかすことができないくらい真っ赤に染まっていた。


真夏の温度