鬼の副長などと呼ばれる彼の人は、その物騒な二つ名に似合わず、存外寂しがりやだ。

「瑠璃、何処だ」

「はい、ここにおりますよ、土方さん」

珍しく互いの非番が重なった一日。

よく眠っていたから彼が起きないうちに洗濯物を干してしまおうと、静かにその腕を抜け出して庭に降りた。

たぶんそれからまだ10分も経ってはいない。

ふらふらと寝乱れた着流し姿のまま縁側に出てきた土方さんは、外にいるわたしを見つけて安堵したように表情を緩めた。

子どもみたいで、ちょっと可愛い。

最後の一つを干し終えてから縁側に戻ると、待ちかねたように腕を引かれた。

隙間がなくなるほど、ぎゅうっと抱き締められる。

「…起きるなら、そう言え」

「ごめんなさい。お疲れだろうなと思ったんです」

宥めるようにトントンと背中を叩いてあげれば、くぐもった声で寂しいだろうが、と呟く。

「…ふふ」

頭一つ分背の高い彼の首へ縋るように手を回して、男の人にしては滑らかな頬に口付けた。

寝惚け眼のままでパチパチと瞬く仕草が、やっぱり可愛い。

「さて、もう一度お布団に戻りますか?戻らないのなら、特別にわたしの膝をお貸ししますけど」

土方さん専用です、とにっこりと笑ってポンポンと膝を叩いて見せると、これまた嬉しそうな笑みが返ってくる。

縁側で陽当たりの良い場所を選んで腰掛けると、すぐに彼の頭が膝の上に乗った。

やわらかな温もりと心地好ささえ感じる重みに、幸せな感情がこみ上げてくる。

「…今度は、黙ってどっかに行くんじゃねェぞ」

「大丈夫ですよ。土方さんが起きるまで、ここにいます」

少し硬めの黒髪を掬うように撫でていると、そろそろと伸びてきた掌に指先を掴まれた。

逃がすまいとするかのように、痛くない程度の強さで握り込まれる。

「…寂しがりの鬼さんですね」

黒髪の隙間から覗く耳を真っ赤にさせた土方さんは、小さな声でうるせぇ、と呟いた。


寂しがりの鬼

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