「まだ怒ってるのか」

リヴァイはようやく掴まえた恋人を、腕の中に閉じ込めながら囁いた。

俯いた彼女の表情は窺えない。

「…ルリ…?」

「…っ…」

耳元からダイレクトに伝わってくる低い美声に、ルリはぎゅうっと身を竦ませた。

自分がこの声に弱いことを知っていてやっているのなら、彼は相当な確信犯だと言える。

「…怒ってないです…」

もうダメ、降参。

諦めたルリは強ばっていた身体の力を抜いて、そっとリヴァイの背中に手を回した。

すり、と肩口に頬を寄せると、安心したような溜め息が降ってきて、優しく髪を撫でられる。

(…ずるい…)

本当は初めから怒ってなどいなかった。

ただあんなことを言われて、どんな顔をすればいいのか分からなかっただけで。

たとえ子ども相手の一時の戯言だったとしても、彼の言葉が嬉しかったから。

「…言っておくが」

遠慮がちに甘えてくる可愛らしい彼女を抱き締めながら、リヴァイは言った。

逃げられないよう然り気無く腕に力を込めて。

「あの時ガキ相手に言った言葉に嘘はない。嘘はないが…」

するりとルリの左手に指を滑らせ、その薬指をなぞる。

「ちゃんと時と場所を考えてから、正式に申し込む。だからもう少し待ってろ」

「……!」

ルリは思わず目を見張った。

その言葉の意味が分からないほど、幼く無知ではない。

「…二度と嫌いだとか抜かすなよ」

「言わないです…!大好きですリヴァイ教官…!」

「あぁ」

俺もだ、と告げて、実に一週間ぶりとなるやわらかな唇に口付けた。

啄むように何度も触れてから、深く貪る。

「ん、…っ…」

「…っ、は…」

飽くことなく繰り返される口付けの合間に視線を重ね、リヴァイはひそやかに笑った。

彼女が自分だけのものになる日は、そう遠くない。