「…リヴァイ、ねぇ、リヴァイ、起きて」 優しい声と手に、深い微睡みに沈んでいた意識を揺り起こされる。 起き抜けのぼんやりした視界で見上げた先には、心配そうにこちらを見下ろす妻の顔があった。 「…ルリ…?」 「おはよう、リヴァイ。疲れてるところ悪いとは思ったんだけど、酷く魘されてたから。…大丈夫?」 「あぁ…」 額に張り付いた前髪を掻き上げると、べったりとした汗が滲む。 朝飯の前にシャワー行きが決定した。 「嫌な夢を見たの?」 やわらかな指先が、こめかみから伝い落ちた汗を拭ってくれる。 あのときとは違う、温もりのある指先が。 「…昔の夢だ」 ベッドの傍に立っていたルリの細い腰に腕を回して引き寄せる。 清潔な香りのする髪に顔を埋めた。 聡い彼女にはそれだけでどんな内容の夢かが伝わったらしい。 背中に回った腕でぎゅう、と抱き返される。 「…一人にしてごめんね」 「全くだ。しかも、次に会う時はとか何とかほざいておきながら、15年も遅く生まれてきやがって。俺を待たせるとはどういう了見だ?」 「そ、それに関してはほんとに申し訳なく思って…でもねぇリヴァイ、あなたこそ!」 うろうろと視線を泳がせたルリだったが、思い出したように頬を染めて眉を吊り上げた。 「だからって、再会した瞬間に人前で抱き締めてキスするとかね…!いくらなんでも恥ずかし過ぎるでしょ!」 「うるせぇな。待たされた方の身にもなれ」 確かにあの時の自分の行動を思い返すと、恥ずかしさで死ねる気がしないでもない。 だが、何年も探し続けて、ようやく見つけたのだ。 形振り構っていられる場合じゃなかった。 すぐ隣でその光景を全て見ていたハンジには、時折ネタに持ち出されてからかい倒される。 その都度制裁を加えてはいるが。 「くっ…!この、ロリコンめ…!」 「ほう?お前がそれを言うか、ルリ。部下と同じ歳ってのはどんな気分だ?」 「…リヴァイの意地悪…!」 そして、何年もかけて見つけたルリは何の因果か、かつての部下であったエレン達と同じ年に生まれていた。 再会した時には16歳。 実に15の年齢差があった。 やはりハンジにもロリコンだ何だと大笑いされたが、そんなくだらない理由で諦めるくらいなら、初めから会えるかどうかも分からない人間を探したりはしない。 さらに二年待って、やっと名実共に手に入れることができた。 「実はその件では、ペトラやエレンにも凄く叱られちゃって…」 「お前にはとことん甘いアイツらにか?珍しいこともあるもんだな」 「これ以上兵長を待たせてたら、あの人使い物にならない腑抜けになるところでしたよ!って」 「…アイツら…」 「怒らないで。…たくさんたくさん待たせて、本当にごめんなさい」 「そうだな」 妻となった女の身体を、そっと抱き締める。 「二度と離してやらねぇから、覚悟しておけよ」 「わたしだって!リヴァイが皺々のおじいちゃんになっても、嫌だって言ったって離れてなんかあげないんだからね」 「馬鹿か。そんときゃお前も皺くちゃだろうが」 互いに顔を見合せ、微笑んで、どちらからともなく唇を重ねる。 もう腕の中の温もりを理不尽に失う恐怖に怯えることはない。 これから先、長く続く未来まで、寄り添って歩いていくことができる。 あの日彼女が望んだ、当たり前に笑いあえる、幸せな明日のある世界で。 二千年後の君へ ×
|