「腹減った」

「ここを出て左に300メートル歩いた所にコンビニがあるけど?」

雑誌から一瞬たりとも目を上げずに答えたら、短い舌打ちと一緒に強い視線が向けられる。

何週間も連絡を寄越さずふらりとやってきたかと思えば、これだ。

まるでこっちに非があるような態度をとられると、流石に頭にくる。

「あんた一体なんなの」

「お前の男だろ」

「へーそうだったの始めて聞いた」

薄っぺらい頁をゆっくり繰ろうとした途端、骨ごと締め付けるような強い力で手首を掴まれたので、雑誌を手離した。

「やめてよ」

「…俺がいない間に新しい男なんざ作ってねェだろーな」

あまりの言い草に顔を上げた瞬間、唸るような低い声とは裏腹に今にも泣き出しそうな瞳を見つけて吃驚する。

「なぁ、瑠璃、」

ああやめて欲しい、心の底から思うのに、そうやって翻弄される自分が、本当に、腹立たしくて堪らない。

肌を這う指先を拒む術が見つけられずに絆されては結局、彼の背中へまた爪を立てるのだ。



ひねくれ者の純情

(はなれられないのは、さあどちら?)




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