※「最愛なる日々をあなたに」続編 「瑠璃、身体の具合はどうだ?」 執務の合間を縫って訪れた城の奥向き。 出迎えたのは妻の愛らしい笑顔ではなく、きりりと眦を吊り上げた己の乳母、喜多の般若の如き顔であった。 「政宗さま!御方さまを御心配遊ばす気持ちはよう分かりますが、お産は病ではございませんと何度申し上げたらお分かり頂けるのです!」 「Ah…とりあえず落ち着け、喜多」 「これが落ち着いていられますか!毎朝毎晩小十郎に泣き付かれる私の身にもなって下さいませ!」 「アイツが泣こうが喚こうが知ったことか!瑠璃が気になって執務どころじゃねェんだよ!」 「あらあら、二人とも、何をそのように言い合っておいでなのですか?」 「瑠璃!」 「これは、御方さま!」 春の陽射しのような笑みを湛えた瑠璃が現れたことで、とりあえず二人の舌戦は一時休戦された。 慌てて妻に駆け寄った政宗が、身重の身体を抱えて大儀そうな彼女を労るように支えて座らせる。 仲睦まじい二人の様子を見た喜多は、渋々といった表情で政宗に一瞥をくれてから下がっていった。 何だかんだとは言いつつも、彼女はこの年若い主夫妻には甘い。 「調子はどうだ?」 「変わりございません。ほら、この子も元気にお腹を蹴っておりますよ」 あたたかな微笑を浮かべた瑠璃が、ふっくらとなだらかな曲線を描く腹部を愛おしげに撫でた。 その夢のように美しい光景を見つめる政宗の眼差しは柔らかい。 あと一月も立てば産み月を迎え、政宗にも瑠璃にとっても初子となる赤子が誕生するのだ。 伊達家家中は上へ下への大騒ぎである。 お産を迎える当の本人は動じる様子もなく穏やかだが、喜多をはじめとする侍女たちは産室の設えから産婆、医師の手配、薬湯の用意にと些かも余念がない。 「お腹にいるうちからこんなにやんちゃなのだから、きっと男の子ですよ」 「瑠璃に似た姫かもしれねぇぜ」 「まぁ、それはどう意味でございます」 「Jokeだ、膨れるな」 拗ねたように見上げてくる妻の手をそっと掴まえて、やわらかな腹部に耳を押し当てた。 確かな胎動が伝わってくる。 「無事に生まれてくれりゃあ、男でも女でもどっちだっていい」 「…はい」 夫妻は、目を合わせてそっと微笑んだ。 「会うのが楽しみだ」 「えぇ、本当に」 何より待ち望んだ幸福は、もうすぐ目の前にある。 繋がる、重ねる ×
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