「リヴァイ教官、先程頼まれた館内警備についての報告書です」

「あぁ…もう終わったのか、早いな」

手渡された書類を確認すると、順序よく綺麗に纏められており、一見した限りでは誤字や脱字なども見当たらなかった。

これまで特殊部隊は男ばかりの職場であったため、女性隊員が入ることで何か良い変化があればとは思っていたが、やはり館内警備一つとっても女性の観点ならではと感じられる意見が多い。

ちなみに、もう一人の女性隊員であるミカサ・アッカーマンに関しては、色々と規格外なため普通の女性の範疇に入れても良いのか迷うところだ。

「内容も丁寧で正確だ。助かった」

何はともあれ、認めるべくはきちんと認めてやるのがリヴァイである。

褒められたルリはにっこりと笑った。

見ている方まで嬉しくなるような笑顔だ。

(…まぁ、こういう素直さも野郎にはねぇ美点だな)

最も、リヴァイはそれが恋人としての私情を存分に含んでいることも理解していた。

入隊当初から異常なまでに競争率の高かった彼女を手に入れたのだ、これくらい何が悪いと開き直る。

デレデレとやに下がった顔をする回りの男達へ血も凍るような一瞥をくれてやってから、リヴァイは承認印を押すためにもう一度書類へ視線を落とした。

そこでふと、あることに気付く。

一番最後のページに折り畳まれた小さなメモが貼り付いていたのだ。

静かに開くと、そこには女性らしい繊細な文字で短くこう書かれていた。

『夜、お時間ありますか?少しだけでもいいので会いたいです』

思わず紙面から顔を上げると、こちらを見ていたらしいルリと目が合った。

メモに気付いたことが分かったらしく、微かに頬を染めて、どうですか?というように首を傾げている。

(…可愛いことしやがって…)

人目がなければすぐにでも抱き締めてやったものを、生憎と今は就業中である。

込み上げる感情を抑え、目線だけで頷いてみせると、ルリは花が綻ぶように微笑んだ。

「…っ…!」

息を飲むリヴァイの傍らで、その微笑を目撃したエレンが真っ赤になってパソコンに激突する。

ごっちん、と派手な音が鳴り響くも、事務室内のあちこちで似たような光景が繰り広げられていた。

鍛え上げられた屈強な男達を一撃で沈めるほどに、その破壊力は抜群だった。

「えっ、ちょ、どうしたのみんな!?」

「…ルリ、いい、気にするな。馬鹿は放っておけ」

「きょ、教官、でも」

おろおろと狼狽えるルリの手を引いて、リヴァイはさっさと阿鼻叫喚と化した事務室を後にする。

「リヴァイ教官、あの、どこに…」

どんどん人気のない場所に向かっていくことに気付いたルリは不安げに尋ねる。

立ち止まったリヴァイは一瞬だけ振り返ると、何も言わずやわらかな彼女の唇に口付けた。

無垢なのは好ましいが、その無防備さは時として男にとって極上の毒になるのだと教え込まなければなるまい。

「夜までなんざ待てるわけねぇだろうが」

「え、…ええぇぇっ!?」

一体何がどうしてそうなったのかさっぱり分からず涙目のルリを引き摺ったリヴァイは、実に楽しげな笑みを浮かべて使われていない備品庫へと足を向けた。


男は狼なのよ