夏ですねぇ、と瑠璃が零した呟きは蝉時雨に掻き消される。 ようやく茜色の滲み始めた空と家々の軒先に連なる風鈴の音とが相俟って、初夏らしさを一層高めていた。 ふと前を行く土方が足を止める。 彼の背をぼんやりと眺めながら歩いていた彼女は、唐突に縮まった距離に驚いて危うく両手の荷物を落としかけた。 「ど、どうなさったんですか土方さん…!」 吃驚しましたという抗議をかわして、土方は瑠璃の細い指に食い込む買い物袋を一つ、静かに取り上げた。 「土方さん?」 「悪かったな、重いモン持たせちまって。ほら」 詫びる声と同時に、彼女の目の前にもう片方の手が差し出される。 さりげなく重量のある方を持ってくれたことに気付いて、瑠璃はそっと微笑んだ。 「ありがとうございます」 大きな掌に自分のそれを重ね、もう一度、ゆっくりとした歩幅で歩き出す。 睦まじげな影が二人を追って長く伸びた。 帰り道 |