※ハンジ視点でリヴァイ×夢主



幸せそうな二人を見るのが好きだ。

たとえそれが仮初めの平和の中、束の間許された恋だったとしても、二人が想い合う姿を見るのが大好きだった。

絶望だらけのこの世界にも一掬いの希望はあるのだと、感じることができたから。

「だから、ルリとリヴァイにだけはずっとそのままでいて欲しいなって。変わらないものも確かに存在するんだってことを、私も信じてみたいから。……なーんてね!」

お酒が進んで、ついつい口が滑らかになってしまった。

まだ辛うじて理性はぶら下がっている状態だったので、思わず溢れた本音を誤魔化すように、慌てて冗談めかした一言を付け加える。

だけど何もかもお見通しだったみたいで、隣に座ってカクテルを飲んでいたルリはふんわりとやわらかな笑みを浮かべた。

彼女のこの笑顔も、私が大好きなものの一つだ。

いつもはリヴァイが独占しているそれも、今だけは私のもの。

同じ会場の何処かで飲んでいる筈のリヴァイを視線だけで探すと、ずっと離れたところから剣呑な眼差しで此方を睨んでくる姿を見つけた。

エルヴィンと共に内地のお偉いさん方に取っ捕まっており、身動きが取れないらしい。

(ふふーん、ざまぁみろ、だ)

彼にだけ分かるようベッと舌を出すと、遠目からでもこめかみに青筋が浮かぶのが見えた。

怖い怖い。

酔いに任せてすりすりと頬擦りしながらルリの身体に抱き付くと、ハンジは甘えん坊だね、と穏やかに笑う声が降ってくる。

彼女の細い指先がグラスをゆうらりと回すと、中に入っていたカクテルも一緒に揺れた。

透き通るような青。

ずっと昔、本で読んだ『海』と同じ色の。

(…壁を越えた、自由の先にあるもの…)

いつか見ることができるだろうか。

ルリと、リヴァイと。

幸せそうに笑う二人の傍らで。

「…ハンジ」

「なぁに?」

見上げると、綺麗に微笑んだルリが優しい手付きでそっと髪を撫でてくれた。

お酒の所為だろうか。

なんだか母親に甘やかされる幼子にでもなった気分だ。

「さっき言ってた『変わらないもの』の中には、ちゃんとあなたも入ってる?」

「……え?」

予想外の言葉に、思わず目を見張った。

変わらないもの。

それはあくまで彼女とリヴァイを指して言った事だったのだけれど。

「…私、も?」

「そう、ハンジも。団長も、ミケも、ペトラも、エレンも、みんな。だってそうじゃなきゃ、わたしとリヴァイの二人だけなんて、そんなのちっとも幸せじゃないもの」

ねぇハンジ。

私の両頬を華奢な掌で包み込むようにして、鮮やかにルリは笑った。

「わたしとリヴァイが幸せでいるためには、あなたたちが居てくれなくちゃダメなんだよ」

だから傍に居て、いつまでも一緒に笑っていてね。

彼女のその言葉は、不思議なほど真っ直ぐにやわらかく響いた。

すとん、と心の何処かで何かが落ちる音がする。

「…あぁ、そうだね」

ほんとにそうだ。

「…ねえルリ、リヴァイと結婚して子どもが生まれたらさ、一番最初に私に抱かせてね!リヴァイより先に!」

熱くなった目元を隠すように抱き付くと、やっぱりルリには何もかもお見通しだったみたいで、それでも彼女は楽しそうに声を上げて笑ってくれた。

「わたしは嬉しいけど、それはリヴァイが怒るんじゃないかなぁ?」

「大丈夫!リヴァイってばルリの言うことなら何でも聞いちゃうんだから」

「俺が何だと、クソメガネ。つーかルリにベタベタ触ってんじゃねぇよ」

いつの間にか背後から忍び寄ってきたリヴァイによって強烈な蹴りがお見舞いされる。

リヴァイが当然のようにルリの腰を抱き寄せれば、彼女は苦笑しながらもそれに寄り添った。

足りないものを補い合うように。

二人で一つ。

どちらが欠けても世界は成り立たない。

「ったぁ!もう、心が狭い男は嫌われるよリヴァイ!」

「問題ねぇな。ルリに好かれていればそれでいい」

「…言ってくれるねぇ」

幸せそうな二人を見るのが好きだ。

だけど本当はそれ以上に、そんな二人の傍で笑っていられる時間が大好きだった。

未来に絶対なんてないことは分かっていても、それでも、ほんの少しの可能性を願わずにはいられない。

いつか訪れるはずの、幸せな未来を。


花の海を恋う

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