全身が鉛にでもなったように重い。

強い吐き気がする。

そして極め付けが、頭の中でガンガン鐘を打ち鳴らされるような激しい頭痛。

「…最悪だ…」

どこからどう考えても完全なる二日酔いだった。

覚えている範囲で昨日呷った酒盃を指折り数え、その数が両手を超えたところで数えるのを放棄する。

「み、水…とりあえず水…」

よろめきながら何とか起き上がったところで、目の前に冷たく冷えたグラスが差し出された。

反射的にそれを掴み、一気に飲み干す。

「だからほどほどになさいませ、と言ったでしょう、土方さん」

咎める声と一緒に、やわらかくて冷たい手がそっと額に触れた。

さっきよりは幾分マシになった頭を抱えて顔を上げると、不機嫌そうな表情を浮かべた瑠璃がすぐ傍に座っていた。

(…やべぇ)

いつもなら二日酔いくらいでは文句も言わずに笑っている彼女がここまであからさまに不機嫌だということは、酔った自分が何かをやらかしたに違いない。

そろりと窺うように見上げると、すぐにふいっと視線が逸らされた。

気持ちの悪い冷や汗がダラダラと背中を伝う。

(いやこれマジでやべェェェェ!)

一体夕べの俺は何をやらかした!?

とにかく自他共に認めるほど俺には甘い瑠璃を怒らせるほどのナニかがあったのだ。

問題はそのナニかが何なのかさっぱり思い出せないということで。

「………あの、な、瑠璃」

「昨日はさぞお楽しみだったのでしょうね」

ありったけの勇気を総動員して振り絞った言葉は、どこまでも冷ややかな彼女の声に掻き消された。

その細い指先が、部屋の片隅で乱雑に脱ぎ捨てられていた俺の着流しをゆっくりと摘み上げる。

それを見て、一体何が彼女をそこまで激怒させているのかが、ようやく分かった。

「……悪い」

着流しには、誰が見ても分かるほど色濃く鮮やかに、紅と白粉が付着していた。

記憶が忘却の彼方にありすぎて全部は思い出せないが、確か近藤さんに引っ張られていつものキャバクラまで連行されたのはぼんやり覚えている。

その時点で強かに酔っていたので、そこから先は完全にフェードアウトだ。

隠しても仕方ないのでありのままを正直に話すと、険しかった瑠璃の表情が微かに和らいだ。

恐る恐る手に触れても振り払われることはなかったので安堵する。

瑠璃に拒絶されたら生きていける気がしない。

「悪かった」

「…もういいです」

「よくねぇだろ。誤解させるようなことをした俺が悪い」

「いいんです…土方さんが浮気するような人じゃないってことは、ちゃんと分かってます」

「なら、なんで…」

俯いた瑠璃は困ったように微笑むと、触れたままの手にそっと指先を絡めてきた。

「分かってても、何だか悔しくて。ヤキモチを妬いただけなんです」

ごめんなさい。

恥らうように瞳を伏せた瑠璃は、はっきり言って悶絶するほど可愛かった。

なんなんだなんでこんなに可愛いんだお前コレ絶対新種の生物兵器か何かだろう。

(こんな状態じゃなければ即押し倒してやったものを…!)

思わず歯噛みする。

もう絶対、二度と深酒はしない。

…でも嫉妬している姿をもう一度くらい見てみたいような気もする。

初めとは打って変わって甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる瑠璃を横目で見ながら、とりあえずさっさと二日酔いにおさらばし、今度はとことん彼女を甘やかしてやろうと心に決めて、目を閉じた。


ダーリン、お酒はほどほどに


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