その後警察へと身柄を引き渡した男には、山のような余罪があったことが分かった。

電車やバスなどの交通機関でも似たような犯行を繰り返しており、警察も手をこまねいていたらしい。

後日図書隊には犯人逮捕に貢献したとして感謝状が贈呈されることになった。

普段どちらかといえば敵対関係にある警察から感謝されるなど皮肉な話である。

「あの、リヴァイ教官、一つだけ疑問があるんですけど」

事件後、何故か二人分の有給を一週間ももぎ取ってきたリヴァイにたっぷりと甘やかされたルリは、すっかり元気を取り戻していた。

明るい笑顔に誰より安堵したのは他ならぬリヴァイである。

「なんだ」

「えーとですね…その、わたしが、お、襲われてた時のこと、なんですが」

膝の上に抱き上げたルリの髪にくるくると指を絡めて遊んでいたリヴァイの動きが、一瞬止まった。

その話はするなと言わんばかりに険しい表情を浮かべるも、無言で続きを促す。

「特殊部隊の皆が近くにいたはずなんですけど、すぐに来てくれなかったのはどうしてなんでしょう?」

「あぁ、それか」

ソファーに寄りかかったリヴァイは深く溜め息を吐いた。

思い出すだけでも忌々しい。

「あの時は、予定よりも早く片が付いたんで偶々図書館に寄ったんだが。そうしたら隊の連中が泡を食ったような顔で飛んできてな」

どうやら、予定外のリヴァイの帰還に隊員たちはうっかり動揺したらしい。

ルリを捜査の囮に使っていることがバレたら自分たちの身が危ういと思ったのだろう。

全員がリヴァイを阻止するべく入り口付近へと集まり、結果は御覧の通りという訳だ。

「…な、なるほど」

何とも間抜けな事の次第が分かっても、ルリは決して仲間を責めようとは思わなかった。

誰にだって間違いはある。

それに、未だに理由は分からないが、こうして思いがけずリヴァイと二人きりの一週間を過ごすことができたのだ。

悪いことばかりじゃない。

そう告げると、リヴァイは呆れたように笑った。

「お前はつくづく甘いな」

「そんなつもりは…」

「いいや、甘い。あぁそうか、それともまだ消毒が足りねぇか?」

「………!?」

有給初日、消毒と称したリヴァイに言葉にするには憚られるような行為をされたことは記憶に新しい。

ふるふると震えながら後退ったルリを難なく捕獲したリヴァイは、獰猛な肉食獣のような笑みを浮かべる。

「遠慮するな。幸い有給は未だたっぷり残ってる。エルヴィンに言って延長させておくとしよう」

(そんな無茶な…!)

ルリの悲鳴は降りてきた唇に呑み込まれ、やがて甘ったるい嬌声に変わり、音もなく消えた。

ちなみに、リヴァイから連絡を受けたエルヴィンが、有給延長の申請を黙って受理したことは言うまでもない。