リヴァイが医務室を訪れたとき、ルリはすでに目を覚ましていた。

蒼白な表情で俯く彼女を慰めるように、ペトラとミカサがその背を撫でている。

「!リヴァイ教官…」

上官の姿に気付いた二人はすぐさま立ち上がってその場所を譲った。

今のルリに必要なのは自分たちではなく、彼の方だと判断したからだ。

「…ルリ」

俯いたままのルリの頬に、リヴァイはそっと指をすべらせる。

背後で扉の閉まる音がした。

気をきかせたペトラとミカサが医務室の職員も連れて退室したため、室内には二人きりとなる。

「ルリ、顔を上げろ」

「…っ…」

「ルリ」

じんわりと染み渡るような優しい声に誘われ、ルリはゆっくりとその言葉に従った。

恐々とリヴァイを見上げる瞳がみるみるうちに潤んでいく。

「…馬鹿が」

こんなときでさえ涙を堪えようとする彼女が愛おしかった。

微かに震えるルリを抱き寄せると、細い身体が一瞬だけ強張る。

あやすように、リヴァイは一定のリズムでトントンと背中を叩いた。

「我慢するな」

ひくりと肩が揺れる。

「全部吐き出せ。それとも、俺がお前一人受け止められない小せぇ男だと思うか?」

「……っ…」

もげるのではないかというくらい勢いよく首を横に振ったルリ。

「なら、泣け」

「…ふ、…っ…ぅ、あ…」

抱き締めてくれる腕に縋り、子供のように声を上げてルリは泣いた。

「っ、こわ、怖かった…!ぜ、全然、抵抗できなくて、」

「あぁ」

「か、身体、触られ…!」

「もういい。それ以上思い出すな」

しゃくり上げるルリを宥めるよう、その滑らかな額に口付ける。

あのふざけた男が彼女の肌に触れているのを目にした瞬間、冗談でなく相手を殺したいと、そう思った。

エルヴィンが止めに入らなければ躊躇なくそうしていただろう。

リヴァイにとってルリはそれほどまでにかけがえのない存在なのだ。

「…頼むから、あまり心配をかけてくれるな」

甘い香りのする艶やかな髪に顔を埋めて、リヴァイは静かに目を閉じた。


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