「…どうしていつも見えるところに付けちゃうかな」

シャツのボタンを丁寧に一番上まで留めながら、溜め息と共にルリが呟いた。

綺麗に糊の効いた襟から覗く白い首筋には、鮮やかな赤い色がくっきりと刻まれている。

その痕が何を意味するのかは誰が見ても明白だった。

「なんだ、不満か」

「不満とかじゃなくて…」

鏡で自分の様子を確認したルリは、どんな顔をしたらいいのか分からないといった表情を浮かべた。

うろうろと落ち着きなく視線を彷徨わせたあげく、上目遣いで睨むように見上げてくる。

「…恥ずかしいからやめてって、何回も言ってるじゃない」

「生憎と物忘れが酷くてな」

「リヴァイ!」

咎める声を躱して、自分が刻み付けたその痕に指を伸ばす。

するり、となぞるように触れると途端にルリは大人しくなった。

真っ赤な顔でふるふる震えている。

(…面白ぇ)

もう少しからかって遊びたいのは山々だったが、これ以上やると拗ねて機嫌を損ねられかねない。

名残惜しく思いつつ手を離すと、ルリはあからさまに安心したように息を吐いた。

「別に取って食ったりはしねぇよ」

「その言葉、自分の胸に手を当ててもう一回反芻してみたら?」

「…まぁ、否定はできねぇな」

指通りの良い髪をくしゃりと撫でてから、自分も身支度をするために立ち上がった。

装着したベルトに不備がないかどうかを確かめているルリは、心底納得いかないという表情で続ける。

「それに…わたしが新兵の訓練担当の時に限ってやたらと多いような…?」

…超がつくほど鈍いこいつでもようやく気が付いたらしい。

最も、新兵の野郎共に付け入る隙を与えないよう、虫除けの意味があったということにまでは思い至らなかったようだが。

しかしそんな考えはおくびにも出さないよう努めて無表情を貫く。

「お前の気のせいだろう」

「そう…かなぁ…」

「あぁ、もしかしてそれは毎日でも付けて欲しいという遠回しなおねだりか?それならそうと早く言え、望み通りにしてやろう」

一瞬で青褪めたルリは怯えながら後退った。

「いや!無理!無理!毎日なんて絶対無理!冗談抜きで死んじゃう…!」

「安心しろ、これで死んだ奴はいねぇ。それに、まぁ、いつも以上に優しくしてやる。…多分」

「多分て何!助けてエルヴィン団長ー!」

逃げ出そうとしたルリの細い腰を掴んで引きずり戻す。

「この状況で他の男を呼ぶとはどういう了見だ?あぁ?」

「う、あ、ごめ、ごめんなさい…!」

「聞き分けのねぇ奴には躾が必要だ。なぁ、ルリよ」

露になった白い項に、ゆっくりと歯を立てた。


馨しい薄紅の痕



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