午前中に行われた対人格闘の訓練では彼が指導教官を務めたのだが、かなりの人数が再起不能の一歩手前まで叩きのめされたとか。

このままいくと次回の壁外調査を待たずして調査兵団は壊滅する。

(人類最強が人類滅亡の発端になるなんて…!)

エレンは戦慄した。

何としてもそれだけは阻止せねば。

「もうこの際形振り構ってる場合じゃないですよ!早馬を出しましょう!ルリさんだけでも帰って来てもらうべきです!」

「…そうね。あの兵長を止められるのはルリだけだわ」

「よ、よし、そうと決まれば…!」

ガタン、と三人が立ち上がった時だった。

部屋の扉がキィ、と静かに開く。

ついに悪鬼と化した兵長の魔の手が此処まで、と誰もが絶望したその瞬間。

「あれ、三人ともこんなところで何してるの?」

人類を救う救世主が降臨した。

「うわああああルリさぁぁん!」

「えっ、ちょ、どうしたのエレン、なんで泣いてるの?」

涙目のエレンに抱き付かれたルリは困惑しながらもその頭をよしよしと撫でてやる。

「ルリ!」

「あ、ただいまペトラ、これお土産ね」

「ありがとう、だけどそれよりルリ、あなたもう兵長には会った?」

「兵長?まだ会ってないけど…」

「すぐ行きなさい。私たちのことはいいから、可及的速やかに。さぁ!」

「え、う、うん…?」

ペトラの迫力に圧されたルリは、泣いているエレンと顔色の悪いオルオを見比べて首を傾げながらも踵を返した。

初めとは違った意味での沈黙が落ちる。

「…俺たち…助かったんですね…!」

「あぁ…今回ばかりは本当にどうなるかと…」

「とりあえず、次回からは団長がルリを同行させると言っても断固反対する必要があるわね」

力強く頷き合った三人は、団長不在の間に起きた惨状を報告すべく、揃って部屋を後にした。

ちなみに、本部に帰還した途端目の前に広がった死屍累々たる有り様を見たエルヴィンが、リヴァイ班の三人のみならず調査兵団員全てによる涙ながらの嘆願を即座に受け入れたことは言うまでもない。


華麗なる絶望の回避


×