布団の中でうんうん唸りながら真っ赤な顔で寝込んでいる土方さんをじっと見下ろす。

人の気配に誰より敏感な筈のこの人がぴくりとも反応しないことからして、重症なのは明らかだった。

額に乗せたタオルを交換しながら、可哀相だなぁと思うより先に、とある一言が脳裏に浮かぶ。

「…鬼の霍乱…」

ぴったり過ぎてちょっと怖い。

額に触れると、薬が効いたのか熱は少し下がったようだ。

大体、わたしには散々体調管理に気をつけろだの何だのと言っておきながら、自分が倒れるなんて本末転倒にも程がある。

代えの利かない大事な人なのに。

あれだけ自分の身体を大切にしてと言ったのに。

目の下にできた隈をそっと撫でた。

「わたしを置いて死んだら、閻魔大王殺して地獄から引き摺り戻してやる」

「…なに物騒なこと言ってんだ…」

掠れた声は、ひどく小さい。

それでも、目を覚ましてくれたことにどうしようもなく安心した。

「人の忠告聞かないでぶっ倒れるまで仕事した土方さんなんて嫌いです」

「冗談でも嫌いとか言うんじゃねェ」

「大っ嫌いです。土方さんなんていっそ仕事と結婚したらいいんです」

「…俺が悪かったから、泣くな…」

頼むから。

そう言って、土方さんはいつもより頼りない指先で、優しくわたしの目尻を拭う。

零れた涙はいつもより少しだけ塩辛かった。

「…一週間お触り厳禁で許してあげます」

「馬鹿言え、お前は俺を殺す気か」

「そうですか、一ヶ月がいいですか」

「…治ったら覚えとけよ瑠璃」

ちょっと本気で焦った土方さんに、一瞬だけ掠めるように口付けて、立ち上がる。

「待ってるから、早く治してくださいね」

見下ろした彼は、熱があるとき以上に真っ赤な顔で、上等だ、と笑った。


くちびるに残った熱

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